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第百九十八章 革騒動~第二幕~ 3.マナステラ(その1)

 ――イラストリアは「幻の革」を他所(よそ)へ流す気は無い――


 差し向けた商人たちからそういう報告を受けたマナステラでは、この難局にどう対処すべきかという方針を巡って、議論が沸騰する事になった。


 ……これは大袈裟な話でも何でもない。


 マナステラが渇望して()まないノンヒュームたちとの友誼。それをを易々と獲得した――註.マナステラ視点――イラストリアが、ノンヒュームたちから得た品々を独占し、マナステラにそれを譲ろうとしない。ノンヒュームとの融和を(うた)ったマナステラの(メン)()と国策が、文字どおり根底からひっくり返されかねない事態となっていたのである……少なくとも、国務卿たちの主観では。



「古酒に続いて『幻の革』も独占する気なのか?」

「イラストリアは何を(もく)()んでいる?」



 あれやこれやの失態が打ち続いた事で、すっかり被害妄想気味となったマナステラの国務卿たち。

 自分たちがこんな目に遭っているのは、全てイラストリアが裏で画策したせいに違いない。イラストリア討つべし……などと言い出す者が出る前に、まだ理性が残っていた幾人かが混乱の収拾を図る。



「少しは落ち着け。別にイラストリアが何か(はか)っている訳ではあるまい」

「うむ。話を聞いた限りでは、イラストリアが何かを企んでいるというよりも、ノンヒュームたちの行動に振り回されているような印象を受けるな……」

「イラストリアが『幻の革』の販売統制に乗り出したのも、混乱を避けるのが目的ではないか?」

「古酒の時には貴族たちが過熱したあまり、エルギンの領主やノンヒュームたちが、散々に迷惑を(こうむ)ったようだからなぁ……」



 好ましからざる不安定化を避けるための行動だろうと言われて、頭に血が上っていた者たちも少し沈静化する。



「……では、そのノンヒュームたちは何を考えている?」

「何も考えていない……と言うか、深い考えもなく動いているような気がしないでもないが……」

「少なくとも、古酒にしろ『幻の革』にしろ、ここまでの騒ぎになるとは思っていなかったのは確実だろう」



 あちこちから掻き集めた情報を総合すると、ノンヒュームたちは前回も今回も、利益などというものはまるで考慮していないように思えてくる。

 何しろ前回の古酒に至っては、ノンヒュームたちは銅貨一枚の利益も受け取っていない。……いや……それどころか、古酒の対価として支払われた金など一銭も無い。エルギンの領主は贈り物として受け取っただけで、領主はそれを王家に献上(やっかいばらい)しただけだ。対価や利益の関わる部分など、そこには無かった。……いや……だからこそ、金銭で入手できなかったがゆえに、これほどの過熱を招いたのだと言えない事も無いのだが。



「そして今回の『幻の革』だが……」

「使いを務めた獣人は、店主の出した条件にあっさりと納得したそうだ」

「ノンヒュームたちはものの値打ちというものを知らんのか?」

「そうは言うが……何しろ数百年ぶりに世に現れた『幻の革』だぞ? 値段の算定などできんだろう?」

「だからと言って、あぁも値段に無頓着なのはおかしくないか?」

「……沈没船から引き上げたものという話だったが……」

「単に落とし物を拾ったのとは違うだろう。沈没船からのサルベージ作業には、それなりに費用がかかっている筈だ」

「うむ。ノンヒュームたちがそれを理解していないとは思えん……当事者であればな」

「……ノンヒュームたちが自らの手で引き上げたのではない――と?」

「自分たちで引き上げたのなら、それに要した労力や費用というものが解っていて(しか)るべきだろう」

「正体不明の第三者が介在しているというのか……」



 一同が難しい顔付きになりかけたところで――


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