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第百九十七章 泥炭騒動 5.「災厄の岩窟」~地下火災~

 そこからの顛末(てんまつ)を小急ぎに見ていけば、以下のようになる。


 どうにか手配できた遠話の魔道具、その設定と使い方の教習が岩窟の密使に施され、泣き言を言いつつ習得した密使が王都ヴィンシュタットを発ったのが、王都へ報せが届いてから六日目の事であった。ニコーラムに到着して連絡やら魔道具の設定やらを済ませ、ニコーラムからの消耗品補給の馬車便に偽装して岩窟へ辿(たど)り着いたのが、更にその七日後であったのだが……実はこの間に、「災厄の岩窟」では一騒ぎが持ち上がっていた。



『クロウ様! 地下坑道で泥炭火災が発生しました!』



 ――焦った様子のケルからの連絡を受けて、ダンジョンロードたるクロウは頭を抱えた。


 テオドラムの連中が泥炭層を発見したという報告は受けていたし、万一坑道内で火災が発生した時の打ち合わせも済ませていたが……ピンポイントにトラブルを拾い上げるテオドラムの手際は、もはや天稟(てんぴん)と言うべきかもしれぬ。テオドラムがトラブルに見舞われるのは結構な事だが、その尻拭(しりぬぐ)いをこっちに持ち込まないでほしい……



『……事情を説明しろ、ケル』



 「災厄の岩窟」のダンジョンコアであるケルの報告によると、事態の推移は以下のようなものであったらしい。



・・・・・・・・



『……つまり何か? テオドラムの馬鹿どもは、泥炭のど真ん中で煮炊きをしようとして火を(おこ)したと?』

『はぁ……どうもそのようで……まさか連中がここまで馬鹿だとは思いませんでしたので、不覚にも後手に廻りました』



 ――改めて言うまでも無いが、ダンジョンの壁は破壊も掘削も不可能である。なので、楽をして坑道(ダンジョン)の範囲を広げたいクロウはテオドラム兵をダンジョンの領域外に誘導し、そこで坑道を掘るようにし向けていた。

 ダンジョンマスターとしては如何(いかが)なものかと思える行為であったが、クロウは労せずして坑道の範囲を広げる事ができる上、テオドラム兵がダンジョンに侵入・滞在する――掘削部に至るにはダンジョン部を通行しなくてはならないため――事で、兵士たちから漏出する魔素を労せずして回収する事ができる。一方テオドラムにとってみると、掘削後の坑道をクロウがダンジョン化する事で、崩落の危険を免れる事ができる。

 ――と、珍しくも双方Win-Winとなる関係を構築できていた……互いに好意など()(じん)も抱いてはいないにも(かか)わらず。


 ただ、問題が無かった訳ではない。その最大のものが、ダンジョンの領域外で活動しているテオドラム兵の行動が、ダンジョンコアにもダンジョンマスターにも把握できなくなる――少なくとも、情報量が減る――という事なのであった。


 (かつ)てはそのせいでテオドラム兵が水脈をぶち抜くのを見過ごして、挙げ句に坑道を浸水させるという不手際を招いたのであったが……仮にも哺乳綱霊長目なのだから、テオドラム兵とて少しは学習しただろうと考えていたのが甘かったらしい。



『あの愚物ども……燃料を採掘しているという自覚は無かったのか……?』

『それが……どうも今回が初めてではないようで……今までにも何度かやらかして、大事に至らなかったので慢心していたようです』



 泥炭が湿っていればそう簡単に燃え出す事は無いが、今回は不幸にも程良く乾いた泥炭の傍で火を()いたらしい。巡り合わせが悪かったと言えばそれまでだが、(そもそも)みっしり可燃物に囲まれた場所で火を焚こうなどと考えるのは、愚かを通り越して異常である。



『……始末に負えん阿呆どもだな……』

『とりあえず、火災が起きた範囲をダンジョン化して隔離しました』

『坑道内への延焼は阻止できたんだな?』

『はい。何人かのテオドラム兵がダンジョン化に巻き込まれましたが』

『自業自得だ。ダンジョンに吸収される事で償ってもらおう』


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― 新着の感想 ―
身も蓋もない事言ってしまえばテオドラムの人達はうっかりしなければお目こぼしレベルで利益を得られたのにが多すぎでは……………
[良い点] お疲れ様でした。 ダンジョン化しての隔離は恐らく周りの国々にイラン誤解を招くと思うぞ(笑)
[一言] セントラリアの火災のようになりそう
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