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第百九十七章 泥炭騒動 4.テオドラム王城(その2)

 平素果断な軍務卿にしては珍しく、煮え切らない口調で話した内容を要約すると、以下のようになる。


 まず、ニコーラムに置いてある遠話の魔道具に不具合が見つかったのが先月の事。直ちに交換の要請が出されたのだが、折も折、まさにそのタイミングで開発本部から新型通話機の試作品が持ち込まれたのだという。丁度好いから実働試験を任せようという事になったのだが、ここで中央作戦本部の者たちから待ったがかかった。


 作戦本部としては、傘下の部隊を指揮統制するための要である通信網を、正常に稼働するかどうかも怪しい試作品の試験などに使われたくはない。肝心要の時に試作品がぶっ壊れたなどとなっては、場合によっては亡国の引き金を引く事になりかねないではないか。試作品の試験は試験として、信頼性が保証されている従来品を先に配備してもらいたい。


 この要求に困ったのが開発本部である。作戦本部の要求は筋の通ったものだが、こちらにはこちらの都合がある。()(てい)に言えば、新型通話機の開発のために魔石などの部品や材料を使い果たしてしまい、新たに従来品を作り上げる余裕が無かったのである。仮に作戦本部の要求を受け容れるとなると、折角組み上げた試作品をバラして部品を取り出す必要がある。開発本部としてそれは受け容れがたい。

 困った開発本部は、作戦本部に事情を説明して試作品で納得してもらえるよう説得したのだが……何しろ開発本部と言えば、使うに困るような珍発明を送って寄越す常習犯である。その尻拭いばかりさせられている実働部隊としては、これ以上余計な真似はしてほしくない。()して、これは国防にも関わってくる案件である。従来品の要求を取り下げる事はできない。


 ……とは言うものの、開発本部の苦境も理解できない訳ではなかったので、連名で魔石その他の部品を融通してくれるよう上層部に要求を出したのだが……これは軍需統制局――軍需卿の管掌する組織――に一蹴された。

 ここのところのあれやこれやで、魔石を筆頭にした軍需品の多くは逼迫(ひっぱく)する状況にあり、ニコーラムにだけ二重に――試作品と従来品――供給する事はできない。どうしてもと言うのなら、それぞれの本部長の名で然るべき手続きを踏まえて、正式な要望書を出してほしい。それに伴う各方面の根廻しもそっちでやってくれ。どれをとっても、統制局の一官僚にできる事ではない。


 この返答もまた筋の通ったものであったので、開発本部長と作戦本部長は事態の解決を図るべく動き出したのだが……



「……その段階で、岩窟の駐屯部隊にも魔道具を配備するべきではないかとの声が上がったのだ」



 駐屯部隊に魔道具が配備されていなかったのは、一にかかって「災厄の岩窟」の出現が突発的であったためである。取るものも取りあえずといった感じに()()(がたな)で駆け付けたため、魔道具の用意などできなかった。

 その後も()(くず)しに部隊が増強されたため、魔道具の用意など関係各位の頭からコロリと抜け落ちてしまっていた。それがこのタイミングで問題になったのである。



「……作戦本部の方もその時になって気付いたらしい。駐屯部隊に通話機が配備されていない事にな」

「……待ってくれ……以前に『岩窟』で骨が出てきた時……あの時は魔道具で連絡があったように思っていたが……?」



 (いぶか)しげに問い返したのはラクスマン農務卿であったが、それに対する軍務卿の答えは――



「……その事自体は間違っておらん。……違うのは、その魔道具は現場指揮官の私物であったという点だ。事が一刻を争うとあって、敢えて私物――正確には実家である貴族家の所有であったようだが――で連絡してきたようだ。そのために誤解を招く結果になったのだがな。……そして、その指揮官は任期を終えて交代している」



 ――あまりに悪い巡り合わせの数々に、国務卿一同ガックリと肩を落とした。



「……そういった事情が判明するまでに、更に日数を費やす事になった。その後は……もう一々言うのも嫌になるが、同じような事情の繰り返しとなった訳だ。……解ってもらえるかな?」



 軍務卿の最後の台詞(せりふ)は内務卿に向けてのものであったが、これにはメルカ内務卿も毒気を抜かれた体で(うなず)いた。……(うなず)くしか無いではないか。



「それで……その……魔道具の用意はできたのかね?」



 恐る恐るという感じでトルランド外務卿が訊ねたが、



「幸いにな。ニコーラム用に新型の試作品と従来型が一つずつ。駐屯部隊には従来型を用意してある。……実は開発本部からは、駐屯部隊用に出力を抑えた簡易型の提案が上がってきていたのだが……時間が無いという事で突っぱねた」



 全くあの連中ときたら――と、深い溜め息を()く軍務卿を見て、管理職というのは大変だなとしみじみ思う一同なのであった。

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