表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
906/1806

第百九十六章 王都イラストリア 3.王国軍第一大隊(その3)

 ダンジョンマスターなら誰だって、そんなチャンスがあれば飛び付くだろう。そう言いたげなローバー将軍であったが、



「これも推測ですが……Ⅹは既に五つ以上のダンジョンを指揮下に置いています。ここで新たにダンジョンを所有する利点があるでしょうか? しかも、Ⅹの作戦行動域とはかけ離れた場所にです」

「……言われてみりゃあ……無闇に支配地を増やしたところで、管理の手間が増えるだけか……」



 改めて考えてみれば、五ヶ所以上のダンジョンを指揮下に収めているとなると、幾らⅩが有能であったとしても、一人では管理の手も回らないだろう。ならばⅩ個人ではなく、それなりの規模の部下……恐らくは組織というべき規模のものを抱えて、全員で任務に当たっていると考えるべきか。

 そして、そういう組織の管理者として考えた場合、Ⅹが不用意に部下の仕事を増やすような真似をするとは思えない。



「……てぇ(こた)ぁ……?」

「案外、Ⅹはスタンピードを止めただけなのかもしれません。ダンジョンを指揮下に置いたのは、飽くまでその結果であった可能性があります」

「……ダンジョンが目的だった訳じゃなく、スタンピードを止めるのが目的だったってのか?」



 何故(なぜ)だか妙に仁君(じんくん)めいた行動を取っているあのⅩの事だ、未曾有(みぞう)の規模のスタンピードが発生したとなると、その被害を抑えるように動いたというのも考えられなくもない。――そう納得しかけたローバー将軍であったが……



「……ちょっと待てウォーレン、スタンピードの進行方向にあったなぁ、ちっぽけな村一つだとか言ってなかったか?」



 たかが僻地の寒村一つのために、そんな手間をかけたと言うのか?



「小さかろうが大きかろうが、そこに住んでいる村人にとっては、スタンピードの発生は一大事ですからね。人数が違うだけで、人が死ぬ事に変わりはありません」



 キッパリと言い切ったウォーレン卿に、ローバー将軍は自分の傲慢さを恥じる事になった。国政に携わる者の宿命とは言え、いつしか民を数字として見ていたようだ。Ⅹはそれをよしとしなかったのか。

 (いささ)か凹み気味の将軍であったが、そんな綺麗事の解釈でお茶を濁さないのがウォーレン卿という人物であって――



「……ただ、Ⅹの主たる目的が、寒村の救難にあったかどうかは、まだ断言はできません」

「……何だと……?」

「村の救難も視野には入れていたかもしれませんが、Ⅹはもっと大きな視点で判断して動いた事も充分考えられます。具体的には、テオドラムやイラストリアの周辺が不安定になるのを嫌ったのではないかと」

「うむ……」



 成る程、為政者的な視点から見ても、Ⅹの行動は説明できるようだ。将軍はうむと納得しかけて……その思いを引き締めた。

 何しろこの(ウォーレン)ときたら、一つ結論を述べたその舌の根も乾かぬうちに、別の結論を言い出す常習犯だ。今回もきっと何か(はら)に抱えているに違いない。



「もしくは……」



 ――そら来た。



「……Ⅹが不安定になってほしくなかったのは、マナステラという国そのものであったという可能性も……」



 ――どういう事だ?



「飽くまで想像……いえ、妄想に近いものですが、Ⅹがマナステラに何かをさせようと企んでいる可能性も無くはないかと」

「……むぅ……」

「もしくは……マナステラの状況、或いは動向が、Ⅹにとって好ましいものであるのかも」

「……むぅぅ……」



 ここまで話が広がるとなると、もはや内輪話の(はん)(ちゅう)に止めておける内容ではない。



「ウォーレン、気は進まんが……今まで検討した内容を、陛下に申し上げる必要がありそうだ」

「はぁ……確証のある話じゃないんですけどねぇ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウォーレンさん、そろそろ先に進めてください(涙)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ