第百九十五章 マナステラ 1.報告
舞台がマナステラへ移ります。
精霊たちの交流復活のために手を尽くしている事が――精霊たちの間に――知れ渡るに至って、精霊たちのクロウに対する好感度は青天井となっている。のみならず、長らく途絶えていた交流が復活した事で、クロウの業績と名声は、イラストリア以外の地に住まう精霊たちの間にも周く知れ渡る事になった。……本人が聞いたら頭を抱えそうな事態である。
それはともかく、クロウの恩義に報いんとした精霊たちは、クロウが各地の情報を欲していると聞いて、情報収集に邁進する事になった。お蔭でクロウたちの情報網は、ギルドどころかちょっとした国と較べても遜色無いまでに充実し始めている。
だから……こんな情報も入ってくるのであった。
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『スタンピードの兆候だと?』
『うん。何だかマナステラにあるダンジョンの近くで、そういう気配がするんだって』
マナステラからやって来た精霊がもたらした情報は、シャノア経由でクロウに届いた。
『スタンピード……確か、ダンジョンのモンスターが溢れ出す現象だったよな?』
『そうだけど……闇精霊よりクロウの方が詳しいんじゃないの? 一応ダンジョンマスターなんでしょ?』
『ふむ?』
シャノアに反問されて、クロウは自分の知識を探ってみる。ラノベや何かで得た知識は別として、クロウがダンジョンマジックを得た時点で身に付いた知識もある。意識してその知識を活用した事は無いが……
(ふむ……確かにあるな。習った憶えの無い知識だが……ダンジョンマスターとなった時点でインストールされた情報なのか……?)
その知識に拠ればスタンピードとは――
《大量のダンジョンモンスターがダンジョン外に一斉に流出する現象を「スタンピード」と呼ぶ事がある。スタンピードの原因としては次のようなものが考えられている。
1.ダンジョンの規模に対してダンジョンモンスターの数が増えすぎた場合、過密解消のために一部のダンジョンモンスターがダンジョンを離れる事がある。通常は三々五々に離脱する事が多いが、群れを作る種類であったり、或いは冒険者などに襲われるのを防ぐために一時的な混群を形成する場合、擬似的な小スタンピードとなる事がある。
2.ダンジョンの規模が大きくなると、必要な魔素を効率的に収穫する目的で、ダンジョンマスターがダンジョンモンスターを外に解き放つ事がある。この場合ダンジョンモンスターたちは(全ての個体がではないにせよ)餌をダンジョン内に持ち帰る任務を課せられているため、活動範囲は自ずと制限される。そのためダンジョンから遠く離れた場所への影響は限定的である。
3.ダンジョンマスターが何らかの意図を持って、多数のダンジョンモンスターを放出する事がある。この場合はダンジョンあるいはダンジョンマスターとしての利益ではなく、敵対的かつ戦略的な意図があるのがほとんどであり、従ってスタンピードとしては最も危険である。
4.稀なケースであるが、ダンジョンの巣分かれに伴ってスタンピードが起こる事がある。ダンジョンコアが産み出したダンジョンシードは、多くの場合は風に乗って漂い新たな場所へと広がってゆく。この場合、ダンジョンシードが首尾良く新たなダンジョンへと育つ可能性は高くない。しかし、ダンジョンコアがダンジョンモンスターにダンジョンシードを「託して」外に解き放つ場合、ダンジョンモンスターの移動・探索能力によって、ダンジョンシードが生育適地に辿り着く可能性は飛躍的に高くなる。ただし、この際に解き放たれるダンジョンモンスターの数は多くない。複数のダンジョンシードがそれぞれモンスターを帯同して解き放たれる場合でも、多くの場合各々の群れは別方面に向かうため、さしたる脅威にはならない事が多い。
5.何らかの理由でダンジョンが死んだ場合、そのダンジョンに棲息していたモンスターが、新たな生育場所を求めて移動する事がある。この場合、ダンジョンモンスターのほぼ全てが一斉に移動するため、極めて大規模なスタンピードが発生する事になる。》
(……ふむ。今回のスタンピードはどのケースに該当するんだ? マナステラの国情にまで影響するようだと、テオドラム包囲網へ影響する事も考えられるか?)
場合によっては面倒な事になるかと眉を顰めたクロウであったが、ふと、もう一つの点に気が付いた。
(……人間どもはこの事を察知しているのか?)




