第百九十四章 王都イラストリア 7.王国軍第一大隊(その7)
例によって碌でもない解釈を持ち出したウォーレン卿を、ジットリとした目で睨むローバー将軍。言霊というのを知らんのか。諺にも〝噂をすれば影がさす〟と言うのだぞ。
「まぁ、『シェイカー』の要員を集めるのに手間取った――という可能性も、依然として残っています。特に、母国からの派遣が遅れたのなら、Ⅹの独断で事を進める訳にはいかなかったのかもしれません」
――こちらの解釈の方がまだ穏当だ。そう思ったローバー将軍であったが、ウォーレン卿の話がそう簡単に終わる訳が無く、
「その場合、Ⅹが東側の阻止線を形成してから『シェイカー』が現れるまでの一年ほどのタイムラグの持つ意味は……」
「本国での動きが一年遅れた……か」
「はい。ですが、本国での計画に遅延が生じたとしても、その間のんべんだらりと待っていろという指示が出たとも思えません。では、Ⅹはその間、何をしていたのか」
改めて最初の表を見返してみると、この間に見られる活動は、何れもノンヒューム絡みのものばかりである。そこから判断すると、
「Ⅹはこの期間中、ずっとノンヒュームの活動を支援してたって事になんのか?」
「それはどうでしょうか。この表を見ると、三年目にノンヒュームがビールと砂糖のお披露目に踏み切った時も、その前後でダンジョンが活溌に活動しています。また、今年の五月祭の直ぐ後には、アバンで『迷い家』が御目見得しています。これらから判断すると、ノンヒュームたちの活動にⅩが付きっきりになる必然性は薄いと思われます」
「ふむ」
「また、Ⅹとノンヒュームが常時そこまで緊密に協力しているという証拠は――少なくとも確固としたものは――無いように思えます。寧ろこの分布図から見る限りでは、両者の活動域は截然と分かれている――そう判断するのが妥当でしょう」
「……要するに、Ⅹの野郎が裏に引っ籠もって何の悪巧みをかましてやがったか……それが問題だって事だな?」
「そうなります」
――ルパの尻を叩いて原画を描かせたり、アンシーンを戦力化したり、マリアのダイエット計画を立案したり、ネスにブートキャンプのDVDを観せたり、エッジ村の代官を嵌める陰謀を巡らせたり、精霊門開設のために動いたり、エメンを催眠術にかけてオッドの墓を探したり……そういったクロウの涙ぐましいまでの大車輪を知りようも無い第一大隊の二人からすれば、この間クロウが形を潜めているように見えたのも、仕方がないと言えよう。
……クロウが聞いたらさぞや憤慨したであろうが。
「Ⅹが水面下で何らかの活動を行なっていたとすると、現状で疑わしいのは『誘いの湖』という事になります」
「……〝Ⅹの遠大な計画の第一歩〟……そう言ってたよな?」
「飽くまで可能性としてですが」
何やら含むところのありそうなウォーレン卿を見たローバー将軍は、
「ウォーレン……先だってお前が持ち込んだ、『湖』による害虫害獣の誘致とそのスタンピード化……こいつが無視できなくなってきた訳だな?」
「……そうなります。ただ……これまでのⅩの行動パターンにそぐわないという問題点は残りますが」
「本国における計画の遅延に伴って、方針の変更があったのかもしれんぞ? ……とは言え……これも想像に過ぎんか」
むっつりと考え込んだローバー将軍であったが、やがて顔を上げるとウォーレン卿に問いかける。
「――ウォーレン、貴様のこった。他の可能性ってやつも考えたんだろうな?」
「アバンにおける『迷い家』の準備と……あとは、贋金に関連して何かが為された可能性がありますが」
「あぁ……それもあったか。……ウォーレン、その『迷い家』だがな、準備に手間取って今年まで遅れたのか、それとも『ヰー』のやつらと歩調を合わせるために遅らせたのか、どっちだと思う?」
「現状では何とも。ただ、『迷い家』が単独で出現しても、それほどの効果は見込めなかっただろうとは思います」
「ふむ……」
「もう一つ。『迷い家』と『シェイカー』がテオドラム包囲のための要素だとしたら、配備するのに一年もかかったという事になり、計画があまりにも泥縄過ぎるような気もします」




