第二十三章 捜索者 1.エルフたちの困惑
マール少年の話は、まだ決着が付いていません。
貴族の子供の行方を尋ね歩いている者がいる。エドラの村からやって来た獣人の男の話はホルンを困惑させた。
「その男はなぜ貴族の子供を捜している?」
「そこまでは判らんが、殺すとかそう言う感じじゃなかったな。供回りの男じゃないかと思えるんだが」
一応、しばらくの間だけとは言え一緒に暮らした相手だ。人間に思うところがない訳じゃないが、あんなに怯えた様子の子供を憎むほど落ちぶれてはいない。精霊使い様の秘薬で事情も解ったことだしな。
隣国のクリーヴァー公爵家の一件は、ホルンの耳にも入っている。マナステラのエルフやドワーフの間でも、あの粛清はやりすぎだという声が高まっているという。あの国のエルフやドワーフが反公爵家の立場を取っていたのは事実だが、それはあくまで公爵が提唱する政策についてであり、公爵個人への敵意はなかった。マナステラの人間はエルフやドワーフに気を遣ったつもりだろうが、エルフやドワーフの立場からすると、粛清の責任を自分たちに押しつけられたようなものだ。実際、あるドワーフの鍛冶師など、政争のダシに使われたと憤慨していたらしい。
クリーヴァー公爵家が亜人を迫害した事はないため、公爵家に対する批判よりもむしろ生贄となった事を同情する声が高い。要するに、人間側と亜人側の温度差が公爵家の悲劇となって現れたのである。
ホルンもこういった事情を理解していたため、あの少年を今更どうこうするつもりはない。とは言え、積極的に助けようと言う気もしない。第一、何をどうすればいいというのだ?
ここまで考えてきて、ホルンはふと気がついた。
「なぜ、この話を俺にする?」
獣人の男はきまり悪げにガリガリと頭を掻いて、ホルンの疑問に答えた。
「いや、俺にもどうしたものか判断がつかなくてな。村の皆も戸惑っているし、力頼みの獣人よりは、エルフの方が思慮深いかと思ってな」
「要はこっちに丸投げか?」
「まぁ、そうだな」
・・・・・・・・
とは言え、聞いた以上知らんぷりもできない。
ホルンはとりあえず、聞いた内容を長たちに伝える事にした。
「ホルンよ、しかし儂らに何ができるというんじゃ?」
「別に何かを期待しているわけではない。それは獣人たちも同じだろう。俺も一応皆に知らせておこうと思ったまでだ」
「ホルン、お前、あの子の素性を知ってるんじゃないのか?」
問われてホルンは考え込む。確かに知っている。精霊使い様はあの子の素性について何も指図をなさらなかった。と言う事はつまり、素性について皆に話すかどうかは俺の裁量に委ねられたという事だ。
「あの少年は隣国マナステラの、今は亡きクリーヴァー公爵家の公子だ。粛清を逃れてこの国にやって来たらしい」
エルフの一同は僅かにどよめくが、大方そんな事だろうと見当を付けていたため混乱はない。混乱はないが、どうすればいいか決めかねているのも事実である。
「ホルンよ、あの少年の処遇については、精霊術師殿がどうにかなさったのじゃろう? ならば、何をおいても彼の御仁にお知らせするのが筋ではないか?」
ホルンもそれを考えていたので、長の意見に同意する。
クロウからホルンに、物品売却の事で連絡があったのは、その少し後の事であった。
本章はもう一話あります。




