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第百九十二章 それぞれの夏祭り 4.シュレク(その2)

生憎(あいにく)じゃが、これはこの村でしか育たんのでな」



 ――と、村人全員で口裏を合わせて押し切っていた。



「そうか……」



 そして他所(よそ)の村の者たちも、それ以上追及する事は無かったのである。


 この村の者たちがどんな目に遭わされてきたのかも、そして自分たちが何の手助けもしてやれなかった事も、嫌になるほど解っている。(ようや)く人並みの――そう言っていいのかどうかは少し気になるが――生活を送れるようになったのだ。余計な詮索(せんさく)など()(すい)であり無用である。

 それでなくとも、この村には色々と世話になっているのだ。……具体的には、「生き残るための基礎訓練」というやつで。


 死霊術師(ネクロマンサー)の若者スキットルを鍛え直すためにネスが始めた特訓は、やがてダンジョン村の若い者たちが参加し始め、更には近隣の村からも有志が参加するに至って、農閑期にはちょっとした軍事キャンプのような規模にまで拡大していた。

 現在では第一期生が後進の指導に当たっており、ネスが直接に指導する事は少なくなっているが、それでもダンジョン村――とダンジョン――の世話になっているのは間違い無い。老人も孫にそれとなく話を振ってみたが、(くだん)の特訓を受けた者たちは一様に口が堅く、〝ダンジョン様のお使わしめ〟――ネスやスケルトン・ブレーブスの事らしい――についてもダンジョンについても、ほとんど漏らす事が無かったのである。


 とは言うものの、現実に自分の村の若い衆が有益な訓練を受けさせてもらっているのは事実なので、彼らも余計な(くちばし)を突っ込む無作法は控えている――というのが、現在の「ダンジョン村」を取り巻く情勢であった。



「まぁ……それについちゃあまり話せる事は無いが……詰まるところ、こっちは大丈夫じゃ。それよか、そっちの方はどうなんじゃ?」

「こっちも相変わらず……いや? ……変わったと言えば、ちょいと変わった事があったのぉ」



 そう前置きして隣村の男が言うには、



「商会の使いがやって来たとな?」

「うむ。何でも小麦が市場に流れておらんとかで、(わし)らのとこにも話を訊きに来たんじゃが……」

「何じゃ? そっちは不作気味じゃったのか?」

「いや、そんな事は無い。特に豊作だった訳ではないが、いつもと同じ程度には穫れたし、お(かみ)もいつもと同じ値で買って行った」

「……すると……上のやつらが売り渋っておるという事か?」



 もはやテオドラム上層部に敬意を表する気も無いらしい友人をチラリと見て、



「そうとしか考えられんのじゃが……その理由が判らんとかで、商会から来たやつも頭を抱えとった」

「ふぅむ……」



 これと同じような会話は、夏祭りを訪れた他所(よそ)の村の者たちを交えて、ダンジョン村の各所で()わされたのであった。



・・・・・・・・



『ふむ……商人たちも気にせずにはいられなくなったという事か?』



 ダンジョン村の周辺にこっそりと配置したケイブラットや怨霊(ゴースト)たちが訊き込んできた話題は、クロウたちの興味を引いていた。



『テオドラムは小麦を売る様子を見せていないという事でしょうか』

『だが……あの国は穀物の輸出で成り立ってるんだろう? 小麦の販売を手控えたりすると、もろに歳入に響くんじゃないのか?』

『それ以上に……重大な……事のために……用意して……いるという……事で……しょうか……?』



 それは一体何なのか。自覚というものに欠けたクロウ主従は、揃って首を(ひね)るのであった。


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