表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
875/1810

第百九十二章 それぞれの夏祭り 3.シュレク(その1)

 その老人は、久方ぶりに出会った旧友に声をかけた。



「ほぃさ、元気でやっとるようじゃな」

「おぅさ、ぼちぼちな。これもダンジョン様のお蔭じゃて」



 夏祭りの当日、シュレクの仮称「ダンジョン村」には、近くの村々からも客が訪れていた。先の老人もその一人で、夏祭りを機にここ「ダンジョン村」の旧友の(もと)を久々に訪れたのである。



「ダンジョン様か……正直言って、今一つ信じ切れんところはあるんじゃが……お主らの様子を見るに、空言(そらごと)という訳でもないようじゃな」

「当たり前じゃ、罰当たりめが。(わし)らはダンジョン様のお情けで助けられたんじゃ。この村でそういう事を言うとると、袋叩きにされるぞ」



 心外そうに言う老友の顔が、すっかり信者のそれになっているのは気懸かりだが……それ以外は(すこぶ)る調子の好さそうな(ふう)を見て、まぁ大丈夫かと判断する隣村の老人。試しに飲ませてもらった水は、以前の金気臭い井戸水とは全く違う、異臭の欠片(かけら)も無い美味い水であった。他の村人たちの顔色も好いし、見れば小麦を始めとする作物の出来も、以前とは較べものにならないほど良いようだ。


 ……もしもこれが全て「ダンジョン様」の御利(ごり)(やく)だと言うなら、自分の村に(かん)(じょう)を考えてもいいかもしれない。



「ふむ……麦の育ちも随分と良いし……何より土が見違えたのぉ……。これもダンジョン様の御利(ごり)(やく)というやつか?」

「そうじゃとも。一夜にして村中の土が生き返ったんじゃぞ? お蔭で作物の出来も上々じゃし、この頃では近くの木立まで勢いが良い」

「何? ……そう言えば……何か以前とは(ちご)うとると思っとったが……」



 (かつ)ては貧弱な低木が(まば)らに生えるだけだった荒れ地が、今は緑に茂っているのに気付いて目を(みは)る。


 「(いざな)いの湖」造成と併行して、この村の周辺でもクロウが緑化を進めた成果であった。その実、精霊門の復旧に向けたビオトープ再生の試験的な意味もあるのは、ここだけの話である。



「お蔭で畑の肥やしやら薪やら、大助かりじゃ。……まだ贅沢に使う程ではないがな」

「何を言うとるか。これだけ木だの草だの生えておれば、ウチの村より余程に住み易かろう」



 ――クロウが持ち込んで封印していた「魔の肥料」を、極限まで薄めての撒布試験も兼ねていたため、緑化の進み具合は半端ではない。村人などは、そろそろ鼠の害を心配せねばならないか――と、ある意味で贅沢な懸念を抱いているぐらいだ。

 何しろ以前のこの村ときたら、鉱毒のせいで鼠すら近寄らなかったくらいなのだ。それからすれば長足の進歩……と言っていいのかどうかは判らぬが、少なくとも大いなる変化ではあった。



「それに……見慣れぬ作物も作っておるようじゃな?」

「ん……まぁのぉ……」



 この村ではクロウから融通してもらったジャガイモやらサツマイモやらブロッコリーなどを育てているが、万一ダンジョン様に迷惑がかかってはとの想いから、それらは全て村内で消費し、他所(よそ)の村に持ち込む事はしていない。

 

 クロウが与えた作物のうち、ジャガイモについては似たものがこちらの世界にも存在しているし、ブロッコリーはまだ時期的に花梗を伸ばしていないため葉野菜の何かだと誤魔化せたが……蔓性のサツマイモは似た作物が知られておらず、誤魔化しようもないのであった。(ひっ)(きょう)他所(よそ)の村から来た者たちの注意を引かざるを得なかったのだが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 第四部 暗躍のテオドラム 篇 第百二十八章 シュレク 4.シュレク近郊 ここでブロッコリー他の村にお裾分けしてるようだけど
[良い点] お疲れ様でした。 サツマイモは下手をしてテオドラム王家に知られるとすると、小麦に匹敵する戦略物資としてテオドラム軍に接収されるかもしれませんな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ