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第百九十二章 それぞれの夏祭り 2.ヴィンシュタット(その2)

 ――テオドラムが小麦の販売を控えた理由は何か。


 元はマーカスの貴族にして軍人であるソレイマンは、軍人的発想から自分なりに一つの解を導き出していた。



〝小麦と言えば国民の食糧であると同時に兵士たちの兵糧である〟

〝国が兵糧を確保する理由と言えば、一にも二にも戦争しか無い〟

〝そして、テオドラムが戦の準備をするというのなら、それは我が主君であるクロウ様に対してではないのか?〟



 仮想敵国には不自由しないテオドラムであるが、逆に言えばどこかの国と戦端を開いた場合、()(くず)しに他の国も宣戦を布告してくる可能性が高い。であるからにはテオドラムとしても、他国に対して()(かつ)に喧嘩を売るような真似はできないだろう。……しかし、相手が国でなかったら……?

 ()くの如き論理展開によって、ソレイマンはテオドラムがクロウに戦いを仕掛ける可能性は無視できないと判断していた。


 ただ……実際問題として、どこで戦端を開くつもりなのか?


 クロウは無論、その協力者たるノンヒュームたちも、居住しているのは他国である。まさか他国に侵攻してまで襲撃を仕掛ける無茶はできまい。


 そう考えれば、テオドラムがどのような手段をもってクロウやノンヒュームに立ち向かうのか、その策も見えてこようというものだ。



(恐らくだが……エールを量産してビール攻勢に対抗する気ではないのか? 小麦はそのための原料だろう)



 地球世界においても、〝悪貨は良貨を駆逐する〟の警句がある。


 質ではビールに対抗できないテオドラムが、安価なエールの量をもって物量戦を仕掛けてくる可能性は、無いとは言えなかった。

 その懸念をクロウに進言したところ――



〝面白い。テオドラムのやつらがそんな事を考えているなら、こちらも受けて立つまでだ〟



 以前にカイトたち巡察隊が訊き込んだところでは、エールは(むし)払底(ふってい)気味で、増産している気配は無いとの事だった。しかしこれも、新年祭か何かで一気に放出する事を考えているなら、市場に出廻っていない事の説明も付く。



〝新年祭でも五月祭でも、或いは夏祭りでも構わん。幾ら増産したところで、エールでビールを駆逐する事はできんだろう〟



 ビールはエールの上位互換と認識されている。……逆に言えば、エールはビールの下位互換としてしか見られていないという事だ。幾らエールを放出したとて、それでビールのシェアは崩せまい。廉価販売、大いに結構。売れるほどにテオドラムの赤字が拡大する訳だ。



〝値引き合戦や量販に付き合ってやる必要は無い。勝手に踊らせておけ〟



 ――という事になったのである。



(問題は――敢えて新年祭で放出して正面から挑むのか、それともビールが販売されない夏祭りに流して小金を稼ぐのか――という点だが……それもこれも、今度の夏祭りではっきりするか……)



 他国の夏祭りについては、ノンヒュームたちがそれとなく様子を窺う手筈になっている。ヴィンシュタットの夏祭りについては、自分たちが探るとしよう。


 ハクとシュクの二人を始め、使用人たちにも軍資金は渡してある。ちなみにこの軍資金の元になったのはマナステラ金貨であるが、実はエメン渾身の贋金である。

 (もっと)も作製者たるエメンに拠れば、金の含有量が本物と較べても遜色無いほど高いので、そのまま()(ちゅう)(せん)として黙認されるだろうという話であったが。


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