第百九十一章 船喰み島 5.洞窟跡(その1)
『ますたぁ、ここですかぁ?』
『言われてみればそれっぽいかも……』
『入り口付近には、焚き火していたらしき痕跡もありますね』
『まぁ……洞窟の中で火を使うのは難しいだろうな。排気用の穴でもあれば別だが』
『この窪みって……掘り返そうとした跡なんですかね……?』
『どうだろうな。結構奥まで埋まってるみたいだが……その先に空洞部が残ってるな。元は結構大きな洞窟だったようだ』
一旦ダンジョン化してから崩落した土砂を取り除くか――と考えていたクロウであったが、ここで眷属たちから待ったがかかる。アジトとして使えるかどうかも判らない場所を、態々ダンジョン化するのは勿体無いというのであった。
『ひょっとして、崩れ残った壁面に何か手懸かりがあるかもしれませんし』
ハンスまでもが安易なダンジョン化に懸念を表明した事もあり、ここはスレイとウィンの土魔法に任せようという事になった。意気上がる両名の土魔法によって、埋まった土砂が簡単に取り除かれ、再崩落しないように壁面が補強されていく。
『……土魔法って……発掘作業には必須のスキルですね……』
自分でも取得できないかと考え始めたらしきハンスに、クロウの注意が飛ぶ。
『それはいいが……ハンス、手懸かりとやらは残ってないのか?』
『あ……申し訳ありません。……えぇ、今のところ手懸かりらしきものは無いですね』
やや進んだところで、
『あ――主様、この先に少し広い場所があるみたいです』
『今は埋まっておりますが……』
『生活空間だったかもな。できるだけ注意して発掘してみてくれ』
『『お任せを!』』
・・・・・・・・
『……どうやら当たりですね。家財らしきものが結構残されてます』
『ふむ。崩落に巻き込まれたらしい屍体は無いな。身一つで崩落から逃げ出したか?』
『マスター! こっちに、お宝らしいのが!』
キーンたちが騒いでいる隅に行くと、箱のようなものが所狭しと並んでおり、その中には……
『……長年の難破船荒しの戦利品か?』
『そのようでございますな』
『こんなのを残して逃げ出したんじゃ、未練たらたらだったでしょうね……』
『何とか掘り返そうと奮闘して……失敗続きで心が折れたのかな?』
『みたぃですねぇ』
……呆然として崩落地の前に立ち竦んでいる、或いはへたり込んでいる姿が、ありありと幻視できるような気がする。
『……拠点とするには少し狭いが……一旦ダンジョン化して保存しておくか?』
『えぇと……厚かましいお願いですが、できればそうして戴けると……』
嘗て難破船荒しが隠れ住んでいた遺跡など、歴史学者にとっては垂涎の的だろう。幸か不幸か崩落して以来外気に触れていないらしく、保存の状態も良好である。これは残しておくべきだろうと判断したクロウが、ダンジョンマジックを行使しようとしたところで――
『少しお待ち下さい、ご主人様』
冷静に周りを調べていたスレイから待ったが掛かった。
『うん? どうかしたか? スレイ』
『はい。この部分ですが……洞窟の壁ではなく、かなり昔に崩落した跡のような……』
スレイが指し示しているのは、クロウが察知した空洞のある方向であった。
『……この先に空洞部があるのは判っていたが……それも崩落によって閉ざされたというのか?』
『あれ? だとしたらスレイさん、大昔はこの先にも洞窟が繋がってたって事?』
『恐らく。……かなり昔の事らしく、すっかり固まっていて掘るのが大変そうではありますが……』
『どうせここは保存のためにダンジョン化するんだ。その後で崩落部を取り除けばいいだろう』




