第二十二章 靴と金策 3.金策再び
どうにか金策の当てはできました。
行李を――軍靴と銃剣は取り除けて――元通りに仕舞い込む。さて、と全員を見回して、金策の話を続ける。
『緊急性は下がったとは言え、靴を買う必要も出てきたから、やはり現金収入が欲しい。ボロを出さんように、靴以外も一揃い買っておきたい』
今回はウィンの指摘で気がついたが、下手をすると命取りになっていたかもしれない。身に着ける物くらいはこの世界の物を買っておくのがいいだろう。
前回の王都行きの時、大体の物については値段を調べておいた。そのメモに照らし合わせると、手持ちは靴を買うのにはちと厳しい。何か売るなり何なりして、こちらで資金を調達する必要がある。
『今のところ有望そうなのは前回も好い値で売れた薬草と、あとは水晶を加工した珠ぐらいか? 骨製のナイフは売れるかどうか微妙じゃないか?』
『ドラゴン製なのに駄目ですか?』
『むしろ……ドラゴン製だから……目立ち過ぎ……』
『だな。かと言って、普通の骨じゃ売れんだろ?』
『エルフには売れると思うぞ。あやつらは魔力に干渉すると言うて鉄製品を身に着けるのを極端に嫌うでのぅ』
『そう言えばライもエルフの事を言ってたな。いや、エルフ相手ならドラゴンの革や……手作りの魔石も売れるんじゃないか?』
『人間でも……エルフでも……等しく……騒ぎになると……思います』
『お主の事を精霊術師と思いこんでおる分、納得はさせやすいじゃろうがな』
俺たちにとっては目立たないのが最優先だからな。ある程度の事情を知っているエルフの方が、取引相手としては人間よりも都合がいいか? 町へ行く前に、エルフ相手の取引を試してみるか。
とりあえず、採集しておいた水晶を小さな珠――丸玉と言うらしい――に加工していく。錬金術を試してみると、素材変形とかいうのが使えたのでサクサク加工してゆく。一時間も経たないうちに結構な数の丸玉が手に入った。こっちはエルフ以外にも売れそうだから、少し多めに作ったわけだ。少しなら村人たちにお裾分けしてもいいかもな。ドラゴンの骨の欠片でナイフも幾つか作っておく。他の素材じゃ格落ちだろうし。人造魔石については……どうしたものか悩んだが、エルフとの取引には一応持ち込んでみるか。
『マスター、エルフって、お金持ってるんですか?』
問題の根底をひっくり返すようなキーンの言葉に、ギ・ギ・ギという感じで振り返り、爺さまに念話で問いかける。
『あぁ、大丈夫、それなりに持っておった筈じゃ。人間の町へ出て行くエルフも多いでのぅ』
『いや、村に残っている者が持っていなきゃ困るんだが?』
『ますたぁ、村にぃ、行きますかぁ?』
『いや……そうだな、ホルンを呼び出すつもりだから、あいつが持ってさえいればいいか』
『買い手が一人だけじゃ、あんまり多く売れませんね』
ふむ、買い手がつきそうかどうかだけでも、事前にホルンに確かめておくか。
・・・・・・・・
ドラゴンの骨製のナイフを見せると、ホルンは面白いように食いついた。村のみんなが欲しがるのは確実なので、買えるだけ全部欲しいという。骨の入手先については詮索するなと釘を刺しつつも内心にんまりしたところで、少々困った事に気がついた。
「それで、いかほどで売って戴けるのでしょうか?」
いや? 適正価格なんか知らんぞ?
「この国の相場を知らんからな。値付けは任せる。お前がいいと思うだけを払えばよい」
すると今度はホルンが悩み出した。
彼に言わせると、ドラゴンの骨で作ったナイフともなると、金貨五枚ではきかないほどの値打ちがあるという。魔力特性の点で金属器――特に鉄器――と相性の悪いエルフにとっては、それこそ金貨十枚以上を積んでも入手したいところだそうだ。まぁ、ヴァザーリ攻撃の時にはエルフたちに世話になったしな、金貨五枚で構わないと言ったら手放しで喜んでいた。ホルンには色々と世話をかけてるしな、一番出来のいいナイフ――ドラゴンの似姿を彫ったやつ――を感謝の印としてホルンに渡したら、さっき以上に喜んでくれた。
水晶珠も幾つか、一個あたり銀貨一枚で引き取ってもらえた。森にはアクセサリーになるものが少ないため、女性が喜びそうだと言っていた。魔石については驚いていたが、購うだけの資金がないと言う。
双方満足のうちに取引を終えたところで、ホルンが少し気になる事を伝えてきた。
「クリーヴァー公爵の遺児を探している者がいる?」
事態が妙な方向に動いています。少しだけ今後の展開をばらすと、今回の金策はクロウにとってもホルンにとっても思いがけない影響を及ぼします。




