第百九十一章 船喰み島 1.伝承
『ほぉ……船喰み島……』
レンツの町でハンスが掘り出してきた怪談(?)は、クロウにとっても興味深いものであった。
『はい、レンツの沖合にある無人の小島らしいんですが、なぜか難破する船が多いんだそうです。モンスターが原因とも思えないらしくて……』
ふむ……祟りとかそっちにいく前に、この世界だとまずモンスターが疑われるからなぁ……
『モンスターでないと判断した理由は何だ?』
『冒険者ギルドが何度か船を出して調べたそうなんですが、モンスターの気配とか魔力とかが感知されなかったとか。……まぁ、かなり昔の話らしいんですけど』
『――ん? それって最近は難破事故が起きてないって事か?』
『昔話みたいな口ぶりでしたね』
ふむ……事故物件っぽいとは言え、今に至るも無人の島か。確かに拠点を構えるには打って付けかもしれん。これは皆の意見も訊くべきだな。
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『不吉な伝説に彩られた無人島――って、理想的な物件じゃないですか!』
……案の定キーンが食い付いたか。……まぁ、俺としてもその点には異論が無い。船喰み島と幽霊船なんて組み合わせ――なんて、これ以上無いほど嵌ってるよな。とは言え、
『キャッチコピーだけで判断するな。船が難破する海域という事は、航行や操船にも向かない海域という事だろう。危険な暗礁とか浅瀬があって、船の運用は難しいかもしれんのだぞ』
『つまり……現地を……確認する……必要が……あるという……事ですね……』
『そういう事になるな』
『提督、問題の海域は定期航路の近くなんでしょうか?』
『さて……どうなんだ? ハンス』
『いえ、それが……定期航路からは外れた場所らしくて……なぜそんな島を、航路を外れてまで訪れたのかというのが、怪談のテーマらしいんです』
あぁ……地球で云うセイレーンとか船幽霊と同じように、何かに呼ばれたという話になってるのか。
『寄港の理由はとりあえず措くとして……ハンス殿、定期航路から外れているという事は、我々が目撃される心配は無い……そう考えても?』
『……洋上での視認性とかは専門外なので、確言はしかねますけど……』
これに関してはクリスマスシティーもアンシーンも自信が無いようで、暗くなってから灯火管制の下で行動すれば大丈夫ではないか――という話になった。
で、どうやってその島を訪れるかという事だが、
『あら? クロウは空を飛べるんでしょ? 何の問題も無いじゃない』
『大ありだ。肝心の島の位置が、正確には判ってないんだぞ?』
夜の海上をウロウロと飛び廻るなんて真似、誰がするかよ。
『現実問題として、レーダーを搭載したクリスマスシティーに乗って行くしかないだろう。その島に敵性存在がいないとも限らんのだからな』
ウチで一、二を争う打撃力を持つクリスマスシティーなら、どんな敵が現れても後れを取るような事はないだろう。
『喫水の問題もありますし、自分が行った方が良いでしょうね』
……喫水?
『喫水の浅いアンシーンでは大丈夫でも、自分だと座礁するような暗礁があるかもしれませんし』
『あぁ……確かに……』
『クリスマスシティーなら海底の地形を測量する能力もありますし。確かに私よりも適任でしょう』
ふむ、アンシーンも同意見か。クリスマスシティーの出陣という事で決まったな。




