第百九十章 レンツ 2.訊き込みの結果
数日後、銘々が探り出した内容を報告し合う事になったのだが……
「サルベージ品に関しては、今のところ噂になっているのは古酒だけですね。誰がどこで引き上げたのかが話題になってるようです。運の好いやつだとの声も聞かれましたね」
まずはハンスが、商人との交渉の傍らで訊き込んできた内容を報告した。
「運が好い?」
「いや、そりゃ……解らねぇでもねぇけどよ……」
態々報告するようなネタか? そう首を傾げた者もいたが、
「……つまりあれですか? 一回だけのサルベージで大当たりを引き当てたんだと思われている?」
噂の核心を見抜いたのはフレイであった。
「突っ込んで確かめてはいませんけど、どうもそういう感じのようでしたね」
フレイの解釈を聞いて、改めて〝成る程〟と納得する面々。
――と同時に、別の事にも気付く。
「……待てよ。……てぇ事ぁ何か? クリスマスシティーやアンシーンが飛び廻ってんなぁ、見られてねぇって事か?」
「これも確証はありませんけど、そういう結論になりそうですね」
ですから報告したんですよ――と言うハンスに、カイトたちは感心の体である。成る程、仮令未確認で不確定な情報であったとしても、これは確かに聞き流してはいけないネタだ。
そして……
「ご主人様からは、そろそろクリムゾンバーンの革も売れ始めたって聞いたんだけど……」
「あれはバンクスで売り出してるからなぁ……まだこっちまで噂が届いてないんだろうな」
「だとしても……古酒以外のサルベージ品が、何の噂にもなってないんですね」
「あぁ……他にも引き上げられたもんがある筈――って事ぐらい、気付きそうなものなんだが」
「それもだけどよ……アバンのダンジョン……『間の幻郷』っつたか? そこのドロップ品もサルベージ品と疑われてねぇんだな」
「何と言うか……普通は考えないんじゃないでしょうか」
バートの疑問に答えたのはフレイであったが、他の面々もその返答に納得していた。確かに、どこかの誰かが海中から引き上げたサルベージ品と、ダンジョン――ただし公式にはダンジョンでなく「迷い家」――のドロップ品。健全な良識を持つ者であれば、両者の関連など夢想もしまい。
「まぁ、この件に関してはそれくらいでいいだろう。次に、イラストリアが気にしている『謎の異国人部隊』についてだが……バート?」
「おぅ。昔の伝手で情報屋を何人か当たってみたんだがな……誰もそんな話を聞いた事ぁ無ぇそうだ。逆にどっから出たネタなのかを訊かれたぜ」
「それらしい痕跡も無しか?」
「これっぽっちも、な」
バートの答えに難しい顔付きを隠せない一同。一応他の面々も、それとなく訊き込んではみたのだが……何れも空振りだったのだ。情報が無いというのも情報の一つではあるが、この場合はその情報の解釈に困る。「謎の異国人部隊」自体がガセネタなのか。それとも……身を隠して行動するのに長けているのか。
「……現時点では判断のしようが無い。これはこのままご報告するしか無いだろう」
ハンクの判断は妥当なものであったが、ここレンツでバートが「謎の異国人部隊」について探りを入れたという事自体が、この後にダールとクルシャンクが行なうアムルファンでの訊き込みと併せて、噂の信憑性を高めるのに一役買う事になる……というのは、誰も想像し得ないのであった。
「各々が探り出してきたネタはこんなもんか?」
それは軽い駄目押しのようなものであったが、ここでソロリと手を挙げた者がいた。
「ハンス? 何かあるのか?」
「あの……こんな話を訊き込んだんですけど……」




