第百八十九章 「間の幻郷」ダンジョンマスター顛末 3.採用面接(その2)
ふ~む……要するに、先般ネスとダバルが行なったような戦法を、基本戦術として採用するという訳か。
『はい』
『それを考慮して』
『地上部にも若干の変更が必要かと』
――変更だと?
『いきなり焼き払うような真似をした場合の対応については』
『既に試験済みだと伺いましたから』
『敵がそうでない出方をした場合について、考えておくべきかと』
う~む……思ったより深く考えているのか? だが――
『そうでない出方というのは、具体的にどういったものを想定している?』
『地上の廃屋群を拠点として活用すべく』
『占領して調査するような場合には』
『また別の策を講じた方が有効かと』
ほぉ……今少し具体的に。
『廃屋の中に隠し部屋や隠し通路を造っておけば』
『破壊より調査を優先して進めようとするでしょう』
『ならば、各個に引き込んで翻弄するのは容易かと』
……こいつら……ダンジョンと言うよりも、秘密基地とか幽霊屋敷とかに惹かれている口か?
『マスターっ! その案、採用しましょう!』
あぁ……また面倒なやつが食い付きやがった……
『いやキーン、放棄前までは普通の村だった筈なのに、いきなり隠し部屋だの隠し通路だのが見つかったら、不自然だろうが』
『自然とか不自然とかじゃありません! 怪しい廃屋に怪しい地下通路とか隠し部屋は、不可欠です! ロマンです!』
いや……怪しいと思われたら拙いんじゃなかったのか? それ以前に、防衛計画にロマンを求めるのはどうかと思うぞ?
――だがまぁ、取り敢えず先を続けろ。
『あとは、侵攻部隊と後方との連絡を遮断しつつ』
『煙の幕を張るなどして行動に掣肘を加え』
『状況を把握させぬままに、転移トラップなどで兵力を削いでゆく事を進言します』
ふむ……ジャミングに「霧」、転移トラップか。俺たちの戦術を知っているのかと疑いたくなるくらいだな。自分たちだけで考えたとしたら、思った以上に優秀なのかもしれん。……俺たちが趣味に走り過ぎたせいで、同じようなところに収斂した可能性も捨て切れんのだが……
『基本的な方針はそれとしまして、愈々となったら――』
『愈々となったら!?』
……おぃキーン、そんなに身を乗り出すな。ひっくり返るぞ。
『『『大地を割って巨大ゴーレムが登場するのです!』』』
『同志!!』
……訂正。こいつら優秀なんじゃなくて、善くも悪しくも突き抜けてるんだ。
あぁ……キーンだけじゃなくて、ネスにペーター、クリスマスシティーまでが前のめりだよ。……これは、もう、仕方がないな……
『マスター! 我が「シェイカー」の陣容拡充のためにも、是非彼らを!』
『『『どうか我らにお任せ下さい! 陛下!』』』
……閣下、提督、ボスときて、今度は陛下かよ。俺も出世したもんだ。
……じゃなくて……
……どうせ誰にやらせても初めて尽くしなんだ。やる気と……才覚もまぁそれなりにありそうだし……こいつらに任せてみても構わないか。
『暫くは某が後見という形で面倒を見ますゆえ……』
『そうだな。頼めるか?』
『お任せを』
取り敢えずはネスの助手として経験を積ませるか。あぁ……そう言えば……
『ネス、あまり鍛え過ぎるんじゃないぞ? こんな小さなやつらを人間と同じように扱くのは無茶だからな』
注意しておかんと。ネスはこれで意外と体育会系のスパルタンだからな。
『……畏まりました』




