第百八十九章 「間の幻郷」ダンジョンマスター顛末 2.採用面接(その1)
(ふ~む……)
「間の幻郷」を訪れたクロウの前に畏まっているのは、三体の精霊であった。クロウがシャノアと縁を結んだせいなのか、近頃はシャノア以外の精霊についても、ぼんやりとだが姿くらいは判るようになっている。どうやら少年のような風体だが……?
『あ~……シャノアから聞いたが……ここ「間の幻郷」の管理者の任に就きたいという事で、いいのか?』
『はい!』
『何卒宜しく』
『お願いします!』
おぉ……ピッタリと息が合ってるな。……いや待て……という事は、ひょっとして……?
『……先に確認しておきたいが……お前たち三名の中から一人を選ぶというのではなくて……三人一組で任に就きたいという事か?』
この点をシャノアに確認するのを忘れていた。話によっては選考基準が変わってくるんだが……
『はい!』
『僕たち三人で!』
『お願いします!』
……やっぱりか。精霊にダンジョンマスターなんか任せて大丈夫かと思ったが……三人で一セットというなら、試してみてもいいか? 諺にも〝三人寄れば文殊の知恵〟って云うからな。……〝船頭多くして船山に上る〟とも云うんだが……
これで前提条件は確かめる事ができた。そうなると、最初に訊いておくべきは……
『あ~……我が社……ではなくて……今回の募集に応じた動機について聞かせてもらいたい』
志望の動機とか理由とかを訊くのは面接の定番だよな。てっきりテンプレな答が返って来るものだと思ってたんだが……
『畏れながら、何故かなどとは愚問です!』
『魂がそうしろと叫ぶのです!』
『前世からの宿命なんです!』
……あ、解った。……こいつら、中二病だ。ウチにも似たような連中が居るから解るわ。……で……その我が家の中二病たちが、熱の籠もった視線を向けてるんだが……おぃキーン、「同志!」だとか騒ぐんじゃない。
――熱意については理解したが、肝心の能力の方はどうなんだ? 趣味や道楽でダンジョンを任せる訳にはいかんからな。その辺りはきっちりと確認しておかんと駄目だ。
……とは言うものの、抑どのような方針に基づいてダンジョンを運営していくつもりなのかが判らないと、能力の適否など論じようが無いか。こっちも一応の方針は立ててあるんだが、志望者の意見ってやつも訊いてみないとな。その点について問い質してみたんだが……
『このダンジョンの特殊性については聞いています』
『基本方針としては、ダンジョンだと認識されない事が重要だと考えています』
『そしてそのためには、従来のダンジョンとは事なる運営法が必要になると思います』
うん……中二病にしては確りと考えてるな。……いや……中二病だからこその拘りか?
『具体的にはどういう方針を採るつもりだ?』
そう訊いてみたら、
『まず、ここの生命線とも言える情報収集についてですが』
『これについては他の精霊たち任せの部分も大きいので』
『僕たちはダンジョン関連の内容に集中したいと思います』
……妥当な判断ではあるな。情報関連は別組織として立ち上げるべきか。
『基本的な方針としては、既に立てられたものを墨守したいと思います』
『想定外の突発事態に関してですが、それをこの場で想定して論じるというのもおかしな話ですし』
『ここでは、最悪の事態が生じた時にどう対処すべきかに絞って考えたいと思います』
――まぁ、それについても納得できるな。プレゼンの方針としては、だが。
『明確な敵性勢力の侵攻に対しては、まず地上での迎撃を考えるべきかと』
『それに加えて、既知のダンジョンとは別物である事を印象付ける必要がありますから』
『地上に展開する廃屋群を有効に活用して、迷わせと幻惑を駆使して翻弄する事を考えています』




