第百八十九章 「間の幻郷」ダンジョンマスター顛末 1.難航する選定
「間の幻郷」の管理者の選定は難航していた。要求される条件を満たす人材が中々見つからなかったためである。
このダンジョンの意義に鑑みて、所謂「ダンジョンマスター」である必要は無いが、表向きはともかく一応ダンジョンなので、それ相応の魔術的素養も必須である。
また、近隣は素よりサガンの町まで諜報の手を伸ばしている事もあり、情報の収集・分析や情報工作にも明るい事が望ましい。訪問者の素性を探り出し、状況に最適な対応を取る才覚が必要とされるのは言わずもがな、縦深偵察要員たる精霊たちと上手く付き合える事も要求される。
戦闘については基本的に回避する方針を貫く予定だが、万一の場合を考えた場合、自衛戦闘の指揮を執るだけの戦術的素養も必要である。
そしてこれらの判断を、場当たり的ではなく戦略的な視野に立って下せるという条件がこれに加わるため、適切な人材が見当たらなかったのである。
魔術の素養という条件が無ければ、ペーターの部下にも適当な人材は何名かいたのだが、惜しむらくは彼らには魔術の才が無かった。クロウがダンジョンコアを生み出してそれを教育するという手もあるのだが、抑ここのダンジョン自体がダンジョンシードの生育の場として用意された事を考えると、この手が使える訳も無い。今のところは暫定的にネスがダンジョンマスター……と言うか管理者を兼任しているが、いつまでもこの状況を続ける訳にいかないのは自明である。
どうしたものかと悩んでいたそんなある日の事……
『あ、あのねクロウ……「間の幻郷」の管理者って……もう決まったの?』
怖ず怖ずという感じに話を切り出したのは、闇精霊のシャノアであった。
『いや? まさに難航している最中だが?』
『そ、そう……』
日頃とは打って変わって煮え切らない態度のシャノアを見て、
『……シャノア? 言いたい事があるんなら素直に言えよ?』
こいつ……一体何をやらかした?
『う、うん……別に……言いたい事っていうか……』
『いいからさっさと吐け』
クロウの追及を受けたシャノアが白状した内容は……
『……何? ダンジョンマスター志望の精霊だと?』
――誰一人として想像もできなかった話であった。
『だ、だからね? クロウがダンジョンマスターを探してるって事を、精霊たちに相談してみたのよ。ほら、ひょっとして誰か心当たりがあったりしないかな――なんて思って』
その事自体に問題は無い。どころか、ありがたい話である。しかし……
『……その話を聞いて、名告りを上げた精霊がいたという事か?』
『うん……』
話を聞いてさしものクロウも、う~むと考え込まざるを得なかった。
ダンジョンマスターとは特定の種族を指すものではなく、一種の特殊技能もしくは技能職を指すものだ――とは、嘗てロムルスやレムスから聞いた話である。それに鑑みると、どの種族の者がダンジョンマスターという職に就くのかに関しては、何の制約も無いと言えよう。だが……
『……そうは言っても……精霊にダンジョンマスターなど務まるのか?』




