挿 話 着ぐるみパジャマの遍歴 3.イラストリア王城(その2)
「いえ……態々シアフォード候を巻き込むような形でコンタクトをとってきたところをみると、単に砂糖菓子の件だけとは思えません」
「ふむ?」
宰相がジロリとウォーレン卿を睨む。
「どういう事かの? ウォーレン卿」
「考えがあるのなら、話してもらいたいが?」
「いえ……まだはっきりとした形をとっている訳ではありませんが……」
口籠もりつつも自身の考えを纏め、整理して述べていくウォーレン卿。そして、彼の考えを聞かされた一同は、う~むと唸る事になった。いつもの事である。
「シアカスターをノンヒューム第二の拠点にのぉ……」
「既に砂糖菓子店があるのだから、言われてみればおかしな話ではないな」
「そこまで明確なプランが存在しているのかどうかは、現時点で判断は下せません。飽くまで、このような可能性もある――という程度の事だとお考え下さい」
「……向こうから具体的な接触が無ぇって事ぁ、まだはっきりした計画は固まってねぇのかもな」
「あり得ます。取り敢えずシアフォード候との伝手を求めただけ――なのかもしれません」
「ふむ……ノンヒュームたちは勢力の拡大を目論んでおるのか」
対テオドラムという事を考えているのなら、テオドラム以外の人族を敵に廻したくはないだろう。融和政策の一環として、穏やかな形で自分たちの拠点を広げるというのは納得できる話だ。今なら砂糖菓子の件で、ノンヒュームへの当たりは柔らかい。砂糖菓子店のあるシアカスターを第二の拠点にというのは、それほどおかしな話ではない。
――と、納得しかけた三名であったが……
「――とは限りません」
「「「何だと!?」」」
……それをあっさりと否定してのけるところが、ウォーレン卿の真骨頂である。
「些か穿った考えではありますが、ホルベック卿に過大な負担がかかっている現状を憂えて、シアカスターを第二の拠点とする事で、ホルベック卿の負担を軽減しようというのかもしれません」
「「「う~む……」」」
ウォーレン卿の言うとおり穿った考えではあるが、現在のホルベック卿のブラックな境遇に鑑みた場合、頭から否定できる話でもない。ホルベック卿との友誼がどうこうと言うより、ブラック勤務の元凶として逆恨みされるのを懸念したのかもしれないが。
「あり得ぬ話ではないか……」
そう納得する一同であったが……
――考え過ぎである。
今回の着ぐるみパジャマの件は、最初から最後までクロウの意識の埒外にあり、従ってシアカスターをどうこうしようなどという意図など微塵も存在していない。どころか、クロウは勿論セルマインですら、こういう展開は想像もしていないだろう。
しかし、現実はそんな思惑を裏切って――
「……ともかく、シアフォード候にはこれまでの経緯を説明しておく必要がございましょうな」
「ふむ……好い機会でもある事だし、この際ホルベック卿とも情報を擦り合わせておくか」
――という顛末になったのであった。
・・・・・・・・
ちなみに、藪から棒に〝ノンヒュームに誼を通じよ〟――などと言われて困惑したシアフォード候であったが、幸いにこの時は解決策の方が向こうからやって来てくれた。
……それを幸いと言っていいのかどうかは怪しいが。
「……あの子供服を手に入れてくれと言われても……何件ぐらい来ているのだ?」
「現状で七件、恐らくはこの後も増えるかと」
「全く……殿下が嬉々としてお披露目などなさるから……」
着ぐるみパジャマにハートを鷲掴みにされた第二王子が、事ある毎にそれを見せびらかした結果、貴族たちの間に着ぐるみパジャマ熱というものが広まり、その結果……
「問題の商人は何と言っているのだ?」
「はぁ……偶々手に入ったものゆえ、次の入荷があるかどうかは確約いたしかねると……。ただ、手を尽くしてみるとは申しておりましたが」
「その返事を取り次ぐ事で時間を稼ぐしか無いか……」
――セルマインからの要請を受けたクロウが、事情が解らず当惑する日は、刻々と迫っていた。
次回から本編に戻ります。




