第百八十八章 ヰー! ~第二幕~ 5.ヴォルダバン王城(その2)
出来の悪い三題噺のような難問に、う~むと唸って考え込む国務卿たち。
「……ダンジョンが復活しているか否か……これについては冒険者ギルドにでも問い合わせるとしよう。ダンジョン以外に何か無いか?」
「……無さそうだな。強いて挙げればカラニガンだが」
「カラニガンの町か? しかし……カラニガンの代官が何か企んでいる……とも思えんのだが?」
「では逆に、カラニガンが何かやつらの気に障るような事でもしたか?」
「〝悪の秘密結社〟の気に障る事か?」
「真っ当な事なら須く気に障りそうだが……」
再びう~むと考え込む国務卿たち。結局は……
「……これもカラニガンに問い合わせるしかないだろうな。冒険者ギルドに問い合わせるついでに、こっちの方もやっておくか」
「そうすると……この二つ以外の可能性を考えねばならんのだが……どうした?」
「いや……軍務卿という職掌から、軍人が特定の場所を離れん理由を考えてみたのだがな……」
「ふむ……それで?」
「思い付けたのは、そこを死守する命令を受けているから――というものだった」
「それは――なぜそんな命令を下したのかという問題になって、堂々巡りだろうが」
「そこで想像を広げてみた。今度思い付いたのは、担当区域が決まっている――という可能性だった」
「担当区域……?」
「……ちょっと待て。……そうすると、あの街道以外の場所も狙われているという事になるが……」
「そんな報告は上がってきていない……いや……」
「そうだ。アバンの『迷い家』がある」
予想外のところで予想外の名前が出てきて、困惑を隠せない国務卿たち。
だが、出会う者に幸運をもたらす「迷い家」と、出会う者に「ヰー!」と叫んで襲いかかる盗賊たち……幾ら何でも不釣り合いに過ぎるではないか?
「……どう考えても、あれらを一纏めに扱うのは無理筋だろう」
「いや……逆なのかもしれんぞ? 『迷い家』があるために、あの連中はアバンに行けなかった……もしくは行かなかったという可能性は無いか?」
「……確かに……彼の『迷い家』に徒為す者には破滅が訪れるとの噂があるが……」
「……いや……待ってくれ。『迷い家』と『シェイカー』が存在しているために、どこにどういう影響が及んだか。一つそれを考えてみないか?」
軍需卿からの提案を受け、頷いてその問題に取り組む一同。
「まずは人の流れだな。『シェイカー』があの場所に居座っているために、商人たちはあの街道を使わなくなっている。商人以外の者は――ビクビクしながら――通っているようだがな」
「カラニガンの町に影響が出ているのか?」
「そこまでは……。元々カラニガンからテオドラムに向かう商人は多くないしな。カラニガンに集まる商人は、イルズかサガンに向かう途中の者たちだ。ただまぁ……不穏な話には違いないので、長逗留する者は減ったようだな」
「ふむ……アバンの方はどうだ?」
「どう――と言われてもな。元々アバンは廃村だ。廃村の活況など判りようもないから、最寄りのサガンの様子になるが……『迷い家』目当ての行商人や冒険者などが増えたため、このところ賑わってはいるようだな。ちなみに、これはテオドラム側も同じらしい。ウォルトラムに冒険者が集まっているという話だ」
「イルズの方は変わり無しか?」
「特に変化があったという報告は来ていないな」
「そうすると……カラニガンに逗留する者が少し減って、サガンが少し賑わったという事になるが……」
「……サガンもしくはアバンに、人を集めるのが狙いか?」
藁をも掴むつもりの手探りが、妙な結論を引っ張り出した事に困惑する国務卿一同。
「だとしても……なぜだ?」
「カラニガンとアバンの違い……モルヴァニアに近接しているかどうか――か?」
「モルヴァニア?」
「まさか。幾ら何でもおかしいだろう」
「だが……論を進めていくとそうなるぞ?」
「……この話はここまでとして、他所には漏らさぬ事にしよう。……少なくとも、冒険者ギルドとカラニガンからの報告が上がって来るまでは、な」




