第百八十八章 ヰー! ~第二幕~ 4.ヴォルダバン王城(その1)
「谺の迷宮」の始動以来、正確に言えばその戦闘員のデビュー以来、何かと不本意な立ち位置に置かれているヴォルダバンであるが、彼らとて自国に降って湧いた災難を、ただ漫然と見ていた訳ではない。……まぁ、国難と言うには少々微妙過ぎて、今一つ力が入らなかったのも事実であるが。
そのうちアバンの「迷い家」については、未だに正体が判らない上に、抑実害が――国としては――無い。なので当面は放置しておくとして――問題なのは「シェイカー」を名告る賊徒である。テオドラムとの間にはそれなりに交易がある上に、なぜか他国が関心を寄せてきている。決起声明の中でテオドラムが名指しされているからだろうが、国際的に注目を集めている犯罪者集団を野放しというのも外聞が悪い。
という次第で、ヴォルダバン首脳部は「シェイカー」への対処について考えざるを得なくなっているのだが――
「三度目だ」
「「「「「………………」」」」」
国務卿の一人が言い放った台詞に、全員が沈黙をもって応える。
「商業ギルドから三件目の被害報告が届いた。被害者はまたしても商人で、テオドラムとの交易に従事している点も同じだ。……そして、商人以外の通行人には手を出しておらん」
「……やはり『シェイカー』とかいうやつらなのか?」
「ご丁寧に名告りを上げてくれたからな。疑う余地は無い」
どうやらヴォルダバンの商務卿と覚しきその男は、忌々しげな――そして幾分か不思議そうな――様子で話を続ける。
「我が国とテオドラムを結ぶ街道は、大小合わせて全部で三つ。そのうち、最も小規模で最も交通量の少ない街道にだけちょっかいをかけている。……なぜだ!?」
商務卿は苛立たしげに喚いた。
「なぜやつらはあの場所に固執する!? あの場所は別に交通の要衝という訳ではない。……なのに――やつらはなぜあの場所を選んだのだ!?」
シェイカーの連中が行なっているのは、あるいは行なおうとしているのは、間違い無く経済封鎖である。……だが、選りに選って封鎖の影響が一番小さい街道を、その目標としたのはなぜなのか。
その狙いが判らない事が、商務卿を苛立たせていた。
「……これまでの手並みを見る限りでは、連中が非力であるとは思えんな」
むっつりとした口調で応じたのは軍需卿であった。
「……腕は立つが、手勢が少ないという可能性もあるぞ?」
「だったら尚更身軽な筈だ。狩り場を変えるのに不都合は無いだろう」
誰かの反論をバッサリと切り捨てた軍需卿。彼もまたシェイカーの狙いが判らずに困惑して……そして苛ついている一人であった。
「つまり諸君は、『シェイカー』を名告る賊徒どもが、被害の少ない場所に陣取っておるのが気に入らん――という訳だな?」
からかうような口ぶりで総括したのは内務卿であるが、その目には茶化すような色は浮かんでいない。
「誤解を恐れずに言えばそういう事だ。あの場所に何か、やつらが固執する理由があるのか? それが判らんのでは、効果的な対策も立てられん」
商務卿の言葉を聞いて、居並ぶ諸卿が考え込むが……
「あの場所に何があるのかと言われても……」
「単純に考えれば隠れ家だろうな」
「しかし……獲物あってこその隠れ家だろう。隠れ家に執着して獲物を逃すようでは、山賊として本末転倒ではないか?」
「確か……以前にダンジョンがあったとか聞いたが……」
「以前と言うより大昔だろう。討伐されてから、かれこれ百二十年ほど経っている筈だ」
「ダンジョンが復活した可能性……いや……だとしても盗賊とは結び付かんか」
「いや……彼奴らは確か、〝世界征服を企む悪の秘密結社〟を標榜していた筈だ。ダンジョンの力をその目的に利用しようというのではないか?」
「だったら尚更、ダンジョンが復活するまでは、目立つ真似を控える筈だろう」
「仮にダンジョンが復活しているとしてもだ。……ダンジョンと世界征服と盗賊行為が、どう結び付くのだ?」




