第百八十八章 ヰー! ~第二幕~ 2.クロウ
『ご主人様……デザインを……再検討しては……如何で……しょうか』
『デザイン? 防具のか?』
『はい……ダンジョン化を……試みたのは……テオドラム歩兵の……鎧でした……』
『あぁ……最初から動きにくかった可能性はあるか……』
『まぁ、宙返りなぞ想定して作られてはおらんじゃろうな』
『普通はそんな動きなんか考えないわよ……』
どこか疲れたような爺さまとシャノアの指摘を聞いて、基本デザインと用途が乖離していた可能性に気付く。
『だとすると……参考にすべきは冒険者装備か。カバーする面積を狭くする代わりに、可動性を確保したやつだな』
『革鎧などとなりましょうかな』
『けど主様、モンスターの革とかだったら、同じ結果になるんじゃないですか?』
『ぬぅ……それもそうか。普通の革でないといかんのか』
『でもマスター、そんな安物、ありましたっけ?』
キーンの指摘に考え込む一同。
『……ロムルス、レムス、最初の頃にやって来た冒険者は……あれは、装備もろとも吸収したんだったか?』
『『申し訳ありません……』』
『いや、許可を出したのは俺だしな。まさか、安物の革鎧が必要になる日が来るとは思わなかった』
その後、ピットのダバルとフェルにも確認を取ってみたが、やはり安物は悉くダンジョンに吸収させたという返事を貰う。さて――と思案していたところで、
『ご主人様、「岩窟」に乗り込んで来た愚か者のうち、崖から落ちて死んだ者がおりませんでしたかな?』
『あ……そう言えば……』
『……何かに使えるかもしれんと思って、確か屍体はそのままにしてあった筈だ……』
急ぎ「災厄の岩窟」のケルに確認してみると、革鎧は屍体付きで――必要なのは革鎧なのだから、この順番で間違ってない――取ってあるとの事。幸いな事に、彼の屍体が着用している防具は、安物の革鎧である由。イラストリアに較べてモンスターが少ないテオドラムでは、魔獣素材などという贅沢品は中々行き渡らないらしい。
ともあれ、急ぎ取り寄せた冒険者向け革鎧にダンジョンの能力を――度を過ぎないように注意して少しずつ――付与したものを「戦闘員」に試着してもらったところ、少し動きが制限されるが、防御力の向上を考えれば充分に許容できる範囲だという回答を得た。「ダンジョニック・プロテクター」の誕生である。
防御の問題がクリアーできると攻撃手段が気になるのは世の常で、次にクロウが考え出したのが、魔法攻撃の射程外から一方的な攻撃を加えるという、所謂アウトレンジ攻撃であった。狙撃銃か自動小銃の開発を提案したのであったが――
『『却下!』』
精霊樹の爺さまとシャノアからは即行で駄目出しを喰らい、
『ご主人様……襲撃跡地に……銃弾や弾痕を……残すのは……色々と……拙いのでは……』
『現物はどこから調達するんですか? 主様』
『弾薬の補給も難しいのではございませんか?』
『ますたぁ、手配とかぁ、間に合ぃますぅ?』
『戦闘員が、自動小銃だなんて、断じて認められません!』
――と、眷属たちからも疑問の声が上がる。……業の深い理由での反対意見も、一部から上がっていたが。
『むぅ……なら、魔法攻撃を発射する魔法杖ならどうだ? これなら違和感は無いだろう』
『魔女っ子ステッキってやつ? クロウ』
『違うわ!』
最近シャノアも毒されてきたな……
『……どの程度の……性能諸元を……お考え……ですか……?』
『ん? そりゃ、自動小銃の代替品なんだから……そうだな……弾速は音速程度、毎秒十発、最低でも毎秒三発の速射性は欲しいな。携行弾数は二百発ぐらいか?』
それのどこが自動小銃なのかという突っ込みなど眼中に入れず、自信満々に提案したクロウであったが――
『過剰火力じゃ馬鹿もん! 却下じゃ!』
『やっぱり手配の時間が間に合わないんじゃ……』
『徒に……各国軍の……興味を……引くのでは……』
『様式美にそぐいません!』
――といった次第で、遠距離武器の案は没となる。ただしプロテクターの方は、似たような能力を持つモンスターがいるとかで、問題無く採用された。
元になる防具の手配だけで思った以上の時間と手間を取られ、魔法杖の制式化を押し通していたら間に合わなかったのでは――と、その時になって内心でクロウが焦る事になるのはここだけの話である。
ともあれ、そのようなチート装備を身に纏った「シェイカー戦闘員」が、そんじょそこらの魔術師ごときの手に負える訳が無く……




