第百八十七章 間(あわい)の幻郷 8.クロウ一味(その3)
やって来る冒険者の質がはっきりしないと、今後の整備計画にも影響する。その意味では、今回の馬鹿どもは良い参考になってくれた。
『本論に戻ろう。冒険者ギルドがそういう事を考えているとすると……』
『今回の……件で……警戒を……強める事に……なるのでは……』
『……始末したのは拙かったでしょうか?』
ネスが気遣わしげに問いかけるが、
『いや、既にゴロツキどもは何人か征伐してるんだし、今更だろう』
――と、クロウはさして気にする様子は無い。
『それに……その日のうちに……行商人を……迎え入れて……います……』
『ハイファ殿の言うとおりかと。当方がゴロツキどもを始末したと察したとしても、その一方で行商人は無事にドロップ品を得ている訳ですから、危険だと言い募る事もできないでしょう』
ハイファに続いてダバルもネス擁護の声を上げる。無論、クロウとしても異論は無い。
『仮に冒険者ギルドが危険視しても、商業ギルドの連中はその見解に従わんだろうな』
『冒険者ギルドとしても、強く出るだけの証拠は握っていない筈です』
――そう考えると、今の状況は必ずしも悪いものだばかりは言えない。
しかし、その一方で反省すべき点があるのも事実であった。
『優先すべきは地上部設備の拡充だな。まさか、いきなり攻撃魔法をぶっ放すような乱暴者がいるとは思わなかった』
『油断と言えば油断じゃろうが……これは無理もなかろうな』
『人間ってホント、没義道なのが多いわよね』
『あの連中を人間のスタンダードとして扱うのはどうかと思うが……それはともかく、地上での情報収集インフラが不足しているのが拙かった。迎撃システムも充実させねばならんだろう』
クロウがそう意見を表明したところ、眷属たちから物言いが付いた。
『でもぉ、あそこには魔物とかぁ、いなぃですよぉ』
『罠とかもそんなに無いですよね? 主様』
『てか、罠を仕掛けるような造りにゃしてねぇんですがね、ボス』
『あばら屋が建ち並んでるだけですからねぇ……』
『う~む……「霧」はともかくそれ以外となると、新たに開発する必要があるか。暫定ダンジョンマスターであるネスの負担を減らすためにも、できれば自動反撃システムを組み込みたいんだが……』
『「谺の迷宮」で試運転中のアレですか?』
『あぁ。問題点の洗い出しが済み次第、実装する事を考えるべきだと思うんだが……』
『でもマスター、そもそも敵が来てませんけど?』
『それ以前にじゃ、アレはあそこの特長を活かして組まれたもんじゃろうが。簡単に他のダンジョンに転用できるもんなのか?』
『それなんだよなぁ……』
「谺の迷宮」に実装された自動反撃システムは、魔法攻撃をランダムに反射するという「谺の迷宮」の特性を活かして組み上げられたシステムである。それを十全に活用するとなると、「間の幻郷」にも同様の特性を付与する必要があるのだが、そんな事は想定されてもいなかった。
『こうなってみると、自衛戦力を高く設定していなかったのが痛いな』
『煙幕……と言うか霧と、あとは転移トラップで凌ぐ予定でしたから……』
『霧にしても、当初の計画では視覚の遮断くらいしか考えてなかったしなぁ』
『そもそも……地下の階層での……戦闘しか……想定して……いませんでした……』
『あぁ、それも迂闊だったな。地上部への攻撃を想定していなかった』
地上の廃屋群が破壊されでもしたら、アバンの廃村を訪れる者自体がいなくなる可能性が高い。商業ギルドがそうさせないように動くだろうが、彼らは固有の実働部隊を持っていない筈だ。今回のように一部の冒険者が暴走した場合、それを抑止する能力は無いだろう。
そうなると、クロウたちとしては「間の幻郷」を守るために戦わざるを得ないのだが……
『そうそう再建とか回復の能力を見せるのもなぁ……』
『冒険者ギルドに口実を与えかねませんからな』
『となると……地上部での速やかな殲滅が必要ですが……』
『現在のところ、そこまでの戦力は備わっていない――か』




