第二十二章 靴と金策 1.ワークブーツ
時系列的には少し戻って、第十八章四話の続きになります。
キーンの発言に一旦凍り付きはしたが、気を取り直した俺たちは金策の手段についての検討を続けた。キーンの提案については全員がスルーし、キーン本人も蒸し返す気はないようだ。
『そもそも何で金策の必要があるんじゃ? 必要なものはお主の故郷から取り寄せられるんじゃろうが』
『向こうの物だって只じゃないんだぞ? 向こうでもこっちでも金儲けの手段は必要だ。それに、向こうの品物ばかり身に着けていたんじゃ、怪し過ぎて目を付けられるだろうが。こっちの品物を買うためには金が要るんだよ』
『確かに、主様の靴なんかも独特ですよね~』
……靴?
『いやいや、ウィン、これって普通のブーツだろ? どこがどう変わってるって言うんだ?』
『あれ? お気づきじゃなかったですか? 靴底が全然違いますよ? 足跡とか気になりませんでした?』
言われて初めて気がついた。俺のワークブーツはいわゆるラバーのビブラムソールだが、これって地球世界でも普及したのは二十世紀後半に入ってからの筈だ。……この世界って……まだ鋲靴が主流なのか?
革の靴底に鋲を打ち込んだだけのいわゆる鋲靴は、濡れた岩場や石材の床では滑りやすく、打ち込まれただけの鋲が抜け落ちる欠点があった。これに対して、一九三五年にイタリアのビブラム社が考案したゴム製の靴底、いわゆるビブラムソールは、最初に登山靴として利用されるやいなやグリップ力の強さ、すなわち滑りにくさで鋲靴を圧倒し、その後世界の主流となった。
この世界の靴は革製のいわゆる鋲靴であり、素材としてのゴムが発見されていない事もあって、クロウが履いているようなビブラムソールは明らかに異質である。
拙いっ、拙いぞこれはっ。見た目が同じなんで気にしなかったが、ウィンの言うとおり足跡を見れば一目瞭然だ。すぐに気づかれて……あれ?
『なぁ、エッジ村の村人はなぜ気にしないんだ?』
『最初から異国人と言ってるからじゃないですか?』
あぁ、そうか。単純に「異国の」技術に興味がないだけか。しかし逆に言えば、異国の技術に興味を持つ者が気づいたら……。
『確保、拘束、尋問、拷問のコンボじゃな』
いや、コンボって……爺さま……。
『早急に町へ出てこの世界の靴を買う必要がある……のだが……』
『町へ履いて行く靴はどうするんじゃ? 町はここ以上に人目があるぞ?』
『金策……するにも……町へ出る必要が……あるのでは?』
……積んだかな?……いやっ、待てっ!
クロウが足跡の問題点にやっと気づきましたが、はたして対処方法はあるのでしょうか? 明日はその話になります。




