第百八十七章 間(あわい)の幻郷 4.冒険者(その4)
活動報告にも書きましたが、「従魔のためのダンジョン、コアのためのダンジョン 設定資料集」の、登場人物紹介を更新しました。ご不便をおかけして申し訳ありませんでした。
仰天した様子のメンバーたちに、リーダーは更に畳み掛ける。
「突飛な考えかもしれんが、そう仮定すると色々な事が説明できる。出現の周期が不規則に見えるのも、異なる二つの周期が被さっているためなのかもしれん。消息を絶った冒険者は、偶々現れたダンジョンに喰われたと考えられる。こちらの世界には偶発的に短時間しか現れないだけで、向こうの世界では普通のダンジョンとして存在しているのなら、今まで理解できなかった事も説明が付く」
「「「「う~ん……」」」」
「ただな、そうなると万が一接続している時に、異界のモンスターがこちらへ迷い込むような事になると……」
「あ……」
「面倒な事になる訳か……」
「あぁ。ギルドはその点を心配している」
「「「「う~ん……」」」」
ギルドの懸念は理解できたが、では自分たちは何を調べればいいのか?
「それなんだがな、最低限、ここがダンジョンかどうかの確認はしてほしいそうだ。逆に、ここが『迷い家』なのかどうかは、当面気にする必要は無いって話だ」
「いや……それだけのために、態々指名依頼なんか出したのかよ?」
「お前が言うほど簡単じゃねぇぞ? さっきも言ったように、今はダンジョンでなくても、定期的に異世界のダンジョンと接続する可能性も無視はできん。なので、しばらく様子を見る必要がある。……既に数組のパーティが行方を絶っている事も忘れるな」
「あぁ……そいつがあったっけな……」
「――て事は……しばらく居座るのは決定として……何から手を着けりゃいいんだ?」
「まずは初期状態の確認だろうな。今現在、この廃村はダンジョンなのかどうか」
――と、そこまで話が進んだところで……
「んじゃ……ファイアーボール!」
「「「「おぃっっ!?」」」」
短気な不平屋っぽかった若い男が、やにわに手近な廃屋に火球をぶっ放した。
倒壊寸前だった廃屋は、火を着けられた事で景気好く燃え上がる。
「何やってんだっ!?」
「気でも狂ったのか!?」
血相を変えて詰め寄る仲間に、
「あ? だってよ、こいつが一番手っ取り早いだろ? ダンジョンはコアが健在な限り破壊不能なんだから、逆に言えば、破壊できたらダンジョンじゃねぇって事だろ?」
「まぁ……そうとも言えるが……」
「……つまり何か? こうやって燃えてる以上、ここはダンジョンじゃねぇって言いてぇのか?」
「だろ? 違うのか?」
「……筋は通ってるみてぇだが……」
「幾ら『迷い家』の事は気にすんなって言っても……これじゃ後で苦情が来るぞ」
「けどよ、そいつぁ冒険者ギルドの条件にゃ含まれてねぇんだろ?」
「まぁそうだが……だからといってこのままにはしておけん。ダンジョンじゃないのが判った以上、さっさと火を消すぞ」
――そう言いかけたリーダーであったが、今度は魔術師らしい男が異を唱える。
「いや……この一軒だけだと確実だとは言えん。どうせ燃やすんなら、あと何軒か燃やして確かめるべきだ」
毒を食らわば皿まで――と言うような提案に、リーダーの男も引き気味であったが、
「……仕方がねぇ。適当にばらけて火を着けるぞ。――ただし! くれぐれも燃え広がらんように注意しろ!」
「「「「へ~い」」」」
――という話になって、冒険者たちは各自手分けして廃屋に火を放つ。
能く乾燥していたらしく、空き家は盛大な煙を出して燃え上がる。
「うっぷ……酷い煙だ」
「視界が悪化してる。みんな注意しろ!」
「お~う」
――というような会話が交わされたのであったが……
「……畜生っっ!」
「クソっ! こんなところで!」
「死ねぇっっ!」
一寸先も定かでない煙の中、怯えの混じった怒号と剣戟の音が響いていたが……やがて静かになった。
煙の晴れた後に残っているのは、凄惨な同士討ちを演じて果てたらしい冒険者たちの骸と……何も無かったかのように、先程と変わらぬ姿で佇む廃屋群の姿であった。




