第百八十七章 間(あわい)の幻郷 3.冒険者(その3)
「ついでに言うと、出現する間隔についても説明が付かんそうだ」
「あぁ……規則性が無いんだとか言ってたな」
異世界への通路が折に触れて開くというなら、それはある種の自然現象だろう。そして、自然現象であるというなら、月の満ち欠けや潮汐、季節の変化などと同じように、一定の規則に則っていると考えられる。なのに、「迷い家」が出現する間隔には、どこからどうみても規則性があるように思えない。
実は、規則的な周期とする事で出現を予測され待ち構えられるような事が無いようにと、クロウは乱数表まで用意して、出現が予測できないように計らっていた。
ところが敵も然る者と言うのか、〝出ないなら、出るまで待とう〟とばかりに腰を据えて待ち構える商人が現れたのである。
「間の幻郷」にはアンデッド部隊運用のための出入口という役目もあるというのに、欲深な商人に長っ尻を決め込まれては困る。
そこでクロウは、件の商人の企図を挫くべく出現をストップさせ、二週間程の睨み合いの後に、根負けした商人が立ち去った。その数日後にクロウは「間の幻郷」を出現させ、偶々通りがかった子供に飴玉――缶入りの飴玉一缶――を与えるという挙によって勝利の凱歌を奏したのであった。
「とにかくそういう訳で、我々はここに出現するという『迷い家』について探らんといかん訳だ」
――と、リーダーの男が締め括った。
「けどよデック、ここにその『迷い家』が出るとして、『迷い家』かどうかはどうやって判断するんだ?」
道理である。判断基準をはっきりさせておかないと、「迷い家」が現れたかどうかの判定などできない。斥候職らしい男の質問に、他のメンバーも頷いて同意を示した。
「一応の目印みたいなものはある。〝一面深い霧に覆われて、気が付くと迷い込んでいた〟――という点で、帰還した者たちの証言は一致している」
「霧か……」
「んじゃ何か? 霧が出るのを見たらそれで仕事は終わりか?」
若い男が拍子抜けしたように言ったが――勿論そんな事は無い。
「――んな訳あるか。ギルドからの依頼はここの危険度評価だ。特にギルドが気にしてるのは、ここがダンジョンである可能性だな」
既に数組の冒険者が消息を絶っているとなれば、ギルドが懸念するのも宜なるかなと言える。
しかし、リーダーの返答を聞かされた一同は、納得できかねる表情であった。
「……いや……今の今まで、さんざっぱらダンジョンじゃねぇ理由を並べ立てていたじゃねぇか。何で今更ダンジョンの可能性がどうこうって言い出すんだよ?」
「旨い事お宝を手に入れた連中が、跡白波とトンズラを決め込んだんじゃねぇのか?」
「まず、冒険者がどこで何を手に入れようと、それが違法なものでない限り、ギルドが口を出す事は無い。現に行商人の一部は、『迷い家』でお宝を手にしているんだ。隠したり逃げたりする必要はどこにも無い」
「まぁ……そりゃそうか……」
何となく、〝宝を持ち逃げした小悪党〟のようなイメージを抱いていたが、事実はそれとは違っているようだ。そう気付いて考え込む一同に、リーダーは更に語りかける。
「無事に帰還した冒険者は、『迷い家』では何も危険なものは目にしなかったと言っている。しかし一方で、何組かの冒険者が行方を絶っているという事実がある。ギルドはこの点を警戒している」
「そりゃ……解らなかぁねぇんだが……」
困惑を隠せないパーティメンバーたちに、リーダーは勿体ぶった様子でとっておきの話を持ち出す。
「そこで新たに出てきたのが、〝この廃村は「迷い家」だけでなく、偶に異世界のダンジョンとも繋がるのではないか〟――という仮説だ」
「「「「――はぁっっ!?」」」」




