第百八十六章 クロウ 2.コン・ゲーム~予備検討~(その2)
馬鹿正直にダンジョン化するだけなら、態々こんな手間をかけた甲斐が無い。飽くまでもテオドラムへの嫌がらせを考えるなら、こういった場合にどうするべきかも考えておく必要がある。
『これは……思った以上の大仕事になりそうだな。……まぁ、手掛けた以上はやるつもりだが……』
クロウがそう言うと、オッドとエメンがホッとしたような表情を浮かべる。彼らにしてみればこれ程の、文字どおり一世一代――既に一世は終わっているが――の大仕事である。〝面倒臭い〟という理由で放り出されては堪らないという思いがある。
『しかし、そうすると……〝修道会〟の方が先に動く事になるのか?』
――クロウが温めているもう一つの計画。
精霊たち希望を容れての魔力スポットの復旧、そしてそれを擬装とした情報組織の設立。そのための擬態として、荒れ地の緑化を標榜する〝修道会〟を設立するという計画があったのだが、その渉外担当者として交渉能力に長けた人材が必要であろうという話になり、これもオッドに押し付けようとしていたのだが……
『……申し訳ありません、ボス。そっちも大概に大きな計画になりそうなんで、掛け持ちというのはちょっと……』
『ふむ、厳しいか』
『仕事量が厳しいというだけじゃなく、何かの弾みで顔バレした場合、両方の計画が一気にご破算になりかねません』
『どちらの……計画も……それぞれに……人と会う事に……なりそうですし……』
『危険は避けた方が宜しゅうございましょうな』
『むぅ……そうすると、代替の人材が必要となる訳だが……』
こちらの方も早急に人材の手配を済ませないと、精霊たちからの突き上げが厳しくなりそうだ……と、クロウは内心で焦りを覚える。
実のところ精霊たちは、「誘いの湖」なんて代物を創り上げたクロウに畏れと敬意を抱いており、文句を言うなど考えてもいないのだが。
そんなクロウの様子を見ていたオッドが、ふと傍らのエメンに何やら囁いた。
『……オッド、エメン、何か心当たりがあるのか?』
『あ……はぁ、心当たりといいますか……』
『使えそうなやつの事を思い出したんですが……そいつの消息が判らねぇんで』
二人が言うには、以前にインチキ宗教の教祖みたいに言われて指名手配を喰らった者がいるそうである。
『俺たちの間じゃ「司教」って呼ばれてましたがね』
『ただ……やつは詐欺師というより異端者でしょう。異端ではあっても、一応は宗教家と言っていいと思います』
『しかし……異端とは言え宗教者の端くれなら、アンデッドとの協力は難しいんじゃないのか?』
『いえ、そこが異端の異端たる理由でして』
『アンデッド――俺たちとは違う普通のアンデッドですがね――に対しても、〝神罰も受けずにそこに存在しているのなら、それは神に許されての事であるから、人間風情が軽々しく神敵だなどと弾劾するのは不敬に当たる〟――なんて言い出したもんですから』
『教会組織が挙って非難した訳でして』
『それは……確かに異端だな……』
しかしそういう人材なら、ひょっとして共闘も可能かもしれぬ。
『……誰かに消息を探らせよう。場合によってはギルドに依頼でも出すか』
ともかく両計画とも――
『土地の方は巡察に出ているハンスたちの報告待ち、修道会の方は「司教」とやらの消息待ちか』
やれやれと溜息を吐いたところで、何の気無しにという感じで、オッドがその爆弾を投げ込んだ。
『そう言えば……沿岸国を廻っているという彼らですが……』
『うん?』
『冒険者としてのパーティ名は? 何というんですか?』
『『『『『………………』』』』』




