表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
839/1807

第百八十五章 祟りの地 2.集落跡地

 ベジン村の空き地で一夜を明かしたカイトたちは、翌朝、祟りがあると噂の集落跡地を目指して馬車を進めていた。



「……廃道にしちゃ随分と立派な道じゃねぇか」

「木材の搬出用に整備したらしいですよ。当てが外れた形になった訳ですけど」

「いや……そうじゃなくってな……」

「祟りの現場に繋がる道にしちゃ、きちんと手入れがされてる――って事だろ」

「おぉ……そのとおりなんだが……カイトに言い当てられると面白くねぇな」

「何でだよ!」

「……あの二人は放っておくとして――」

「「おい!」」

「――この道が今も手入れされてる理由なら、道の両脇にある畑が答の一つですよ」



 ハンスが言うように、廃道の両脇にはきちんと手入れされた畑が広がっている。だが、それがなぜ答になるのか?



「……待ってくれ。……ひょっとしてこの畑は、廃道……と言うか、この道が通じた後に作られたのか?」

「ご名答です。折角立派な道があるんだから――って、その両脇に畑を広げたみたいですよ」

「畑に行くのに使うからって、今も道を保守してる訳?」

「そういう事です。……まぁ、それだけではないみたいですけど」

「……理由の一つ――って言ってましたよね。二つめは何なんですか?」



 フレイの問いに答えてハンスが口にしたのは――



「……皆伐後の再造林に失敗したせいで、草木の育ちが悪くなって……」

「魔力が回復しないために、魔獣(モンスター)どもが棲み着かねぇ――って……」

「……その状態を維持するために、敢えて山の草木を刈ってる訳か……」

「……何か魔力が乏しいような気がしてたのよね……」

「災いを転じて福と()す――ってやつか」

(たくま)しいですねぇ……」

「畑の肥料や薪も必要ですし、坊主山にならない程度に注意しつつ刈ってるようですね。それでも、祟りを恐れて集落跡地には近付かないみたいですけど」

「あぁ……それで道が途中から曲がってんのかよ……」

「とりあえず、馬車は径の脇に駐めておけばいいだろう」

「……で、俺たちゃそっから(やぶ)()ぎかよ……」



・・・・・・・・



 悪戦苦闘して集落跡地まで辿(たど)り着いたカイトたちは、どうにか朽ち残っているというだけの掘っ立て小屋――の残骸――を検分していく。床なんて高尚なものは最初から無い造りのため、朽ちた床が抜けるというアクシデントは無かったものの、



「今にも倒れそうな気配じゃねぇか……」

「あまり近寄りたくありませんね、確かに」

「マリア、祟りのようなものは感じるか?」

「そっちの方は専門外なんだけど……怨霊(おなかま)がいるような感じはしないわね」



 ここは(むし)ろクロウにご出馬を願って、実地検分してもらった方が良いのではないか?

 そう衆議一決したところでクロウに連絡をとり、実は歴としたダンジョンである馬車の中に、クロウがダンジョンロードの権能を使って転移して来る。



『……成る程。確かに魔力が薄そうな感じだな。……そこのところはどうなんだ? シャノア』

『確かに魔力が薄いわね。あたしたち精霊には、あまり居心地は好くないんだけど』

『通路には使えんか?』

『う~ん……そこまでじゃないかな。少し雰囲気が悪いだけだし、通過点だと割り切れば問題無い感じ?』

『ふむ……。精霊門の場所としてはともかく、街道筋の傍でありながら人目が少ないというのは、アンデッド部隊の運用には都合が好い。夜にこっそりと出入りすれば、村の連中にも気付かれんだろうしな。……どうだ? ハンク』

『はい。以前には盗賊が(ねぐら)にしていたような噂もあったようですし、我々の活動拠点……と言うか、出入口としては問題無いかと』



 ダールとクルシャンクの乱入のせいで、あたふたとヤシュリクを出る羽目になったのは痛かったが、そのビハインドを埋めて余りある収穫であろう。クロウは上機嫌でハンスたちを(ねぎら)ったのであった。



『で……ご主人様、ここもダンジョンにするんすか?』

『そのつもりだが……あぁ、いや、通常のダンジョンとは少し違うな』

『つまり、いつものとおりって事ですよね、マスター』

『キーン……お前な……カイトも何を(うなず)いてるんだ』

『え? ……あ、いや……結局、どういうダンジョンにするんすか?』



 力業で論点をずらされたような気はしたが、そこを深く追及すると藪蛇になりそうな気がしたので、クロウは――キーンとカイトを少し睨んで――説明に戻る。



『朽ち残った小屋とその周辺の地上部をダンジョンの領域にするが、ここは出入口としてのみ使い、所謂(いわゆる)ダンジョンとしての活動はしない。……一応地下に階層は追加しておくがな』

『コアは置かないって事すか?』

『そのつもりだ』

『オドラントみたぃな感じですかぁ?』

『あそこよりは狭くなるがな』



 クロウの考えでは、ここは単純に出入口のみの機能とし、ダンジョンだなどと悟らせるような事はしないつもりであった。



『ふーん……で、クロウ』

『何だ?』

『ここは何て名前にするつもりなの?』

『名前か……』



 ただの出入口のつもりであったから、特に名前などは考えていなかった。



『イスラファン口とかベジン口とかいうんじゃ……駄目か?』



 眷属たちの残念そうな視線を浴びて、どうやら命名が必要らしいと察するクロウ。その場の空気を読むのは、現代日本の社会人として望まれるスキルである。



『そうだな……ハンス、この場所は何と呼ばれているんだ?』

『えぇと……特には。集落跡地で通じてるようでしたが……』



 クロウはチラリと眷属たちの顔色を見るが、あまり感心していない(てい)である。



『そうだな……とりあえず、仮称「朽ち果て小屋(ロットン・ハット)」とでもしておくか……』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 勘違いの連鎖が面白い [気になる点] ここをダンジョンの領域にしたことで、また斜め上の展開になるんだろうなぁ(楽しみ) [一言] 楽しく読ませて頂いています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ