第百八十四章 ヤシュリク 8.予想外の変更(その2)
「とにかく状況を整理しよう」
当初の予定では、このままヤシュリクに滞在してあれこれの情報を集めた後、一旦沿岸部のハデンに向かい、暫くの情報収集の後にレンツへ移動する予定であった。
しかし、ダールとクルシャンクの乱入によって、最早その予定のままに行動する事はできなくなっている。
「さっさとこっからおさらばするしか無いよな、やっぱし」
「問題は、その後よね」
「当初の予定に従って、ハデンを目指すかどうか……」
「あの二人はここに暫く滞在するようですから、ハデンで少し調査する程度の余裕はあるでしょうが……」
「けどよ、ハデンからレンツに向かうにゃ、その手前のナイハルまで少し戻る必要があんぜ?」
そうなのである。
南北に二百キロほど離れているハデンとレンツを最短距離で結ぶルートは無く、街道を二百キロほど戻って、ナイハルという町からレンツへのルートに入り直さねばならない。 要するに、ここヤシュリクから沿岸部に向かう街道は、ナイハルで二股に分岐しており、南側の分岐を辿ればハデンに、北側の道を進めばレンツに行き着くのである。
「下手をすると、戻る途中であの二人と出会す可能性がある訳だな」
「俺たちの面は割れてねぇと思うんだが……」
「マリアさんとカイトさん、ほとんど面差し、変わってませんよね?」
「フレイも人の事は言えんだろ?」
「……まぁ、お前ら三人は馬車の中に引っ込んでりゃ大丈夫だろうが……」
「あとは……俺たちがアンデッドだとばれるかどうかだな」
「鑑定を誤魔化すための工夫はしてある――って、仰ってたけど……」
「いえ……僕らの正体がばれなかったとしても、僕らが沿岸国にいたという事を記憶に残されるだけでも、後々面倒な事になるかもしれません」
だからと言って、ハデンから遮二無二レンツまで突っ切るのは……
「路面が悪過ぎるからなぁ……」
「馬車はダンジョンだから何とかなるかもしれませんけど……」
「馬は普通に馬だもんなぁ……」
「立ち往生するのが目に見えてますよね」
――という理由でお勧めできないのであった。
「……ハデンは諦めて、さっさとレンツに移動するか」
「それが無難と言えば無難なんだが……」
ヤシュリクにハデンという、イスラファン屈指の町を相次いでスルーするというのも、情報収集の上ではデメリットが大きい。
「んじゃ、後で戻るか?」
「――それも考えた。しかし、あの二人の動きが判らない以上、どのタイミングで戻れば良いのかが判らん」
「……レンツでの訊き込みを終えた時点で戻ると……」
「かち合う危険性があるわな、確かに」
「んじゃ、そのままモルファンに進むしか無ぇだろ?」
「そうすると、今度はモルファンからヤシュリクまで戻る事になる」
「あ~……大廻りもいいとこだわな」
――と、斯くの如く悩ましい状況になっていたのであった。
「……ヤシュリクかレンツの近くにダンジョンでもありゃ、ご主人様のダンジョン転移でちゃちゃっと戻れるのによ」
深い考えも無くそうぼやいたカイトであったが……
「「「「「――それだ!」」」」」




