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第百八十四章 ヤシュリク 6.予想外の動き

 シャノアからの報告を聞いたクロウたちは、全員が困惑を隠せなかった。



『……どういう事だ?』



 最初の任務はまだ解る。

 クリムゾンバーンの革製品はまだ売り出したばかりなので()くとして、古酒の流れからクロウの動きを探り出そうという試みは――迷惑ではあるが――解らないでもない。サルベージという行為から、クロウが古酒以外の品々を入手した可能性を考えたのも理解できる。


 三番目の任務についても納得できる。

 テオドラムが小麦の取引量を絞った件については、クロウの方でもテオドラムの真意を掴みかねていたのだ。代わりに探ってくれるというなら歓迎である。


 しかし……二番目の任務については……



『……一個小隊規模の異国人部隊……って、一体全体何の話だ?』



 ……まさか戦闘員の〝ヰー〟が巡り巡って大変な誤解を生み出しているなど、お釈迦様でも神様でもないクロウに察せられよう筈も無い。眷属たちと共に首を(かし)げる事になったのだが……思い当たる節が無い訳でもない。



『て言うか、アレしか無いだろう。「(こだま)の迷宮」の戦闘員』

『一個分隊だの一個小隊だのというと、確かにそれしか思い当たりませんが……』

『でもマスター、他所(よそ)の大陸って話、どっから出てきたんですか?』

『それなんだよなぁ……』



 〝一個小隊規模の謎の部隊〟と言われてすぐに思い付くのは、「(こだま)の迷宮」に配属して、先日めでたく初陣を――ダンジョンの外ではあったが――飾った「戦闘員」たち以外に無い。無いのだが……それと〝他大陸〟というワードとが、少なくともクロウたちの観点では、どうにも結び付かないのである。()して……



『……アムルファンに上陸したというのは、どこから出てきたんだ?』

『こちらの設定では、モルファンに上陸した事にする筈でしたよねぇ……』



 実は、クロウたちが仕込んだ贋金が御目見得(おめみえ)したのがアムルファン――というだけである。テオドラムの方では、贋金は鋳造所で仕込まれたのだろうと判断していたが、テオドラム以外の他国ではそこまでの確証を掴む事ができず、結果としてアムルファンでクロウ――あるいはⅩ――が策動したという可能性を無視できなかったのである。

 ただ、そんな裏事情まで知らないクロウたちの判断は、



『どうも()く判らんが……その〝謎の部隊〟とやらがアムルファンだかイスラファンだかに上陸した事実を、イラストリアでは掴んだという事なのか?』

『そういう事になるのではないかと……』

『だとしても……沿岸国と密かに手を握っているというのは、どこから出てきた?』

『ひょっとして……情報が錯綜して混同されているのではございませんか?』

『俺たち以外の第三勢力が動いていて、そいつらと俺たちが同一視されていると?』

『他に考えようが無い気がいたしますが……』



 ――違う。


 イラストリアは最初から最後までクロウたちの事しか考えていないのだが、彼らが頓珍漢な誤解をしでかしたために、クロウたちまで混乱させられているだけだ。



(ぬし)様、その何者かが、他の大陸から来たという事ですか?』

『いや……そう断定するのは危険かもしれん……』



 クロウの脳裏に浮かんでいるのは、「洋上機動」という戦術であった。舟運によって大兵力を迅速に派遣・展開するという方法だが、それを考えれば――



『この大陸のどこかから、敢えて船で運んで来たと?』

『それなりの兵力を人目に付かずに動かすには向いた方法だろう。ついでに言うと、今のように他国からの侵入と誤認させる効果も期待できる』

『なるほど……』



 ――だから、違う。


 大陸間移動から大陸内移動にまでスケールダウンはしたものの、相変わらず事実には(かす)りもしていない。



『……テオドラムの……ゴタゴタを……嗅ぎ付けた……何者かが……好機と……ばかりに……動き出した……ので……しょうか……?』

『そうだとすると、ますます他大陸という線は薄れるな。リアルタイムでそこまで精度の高い情報を得て、即座に反応するのは無理だろうからな』

『ふむ……お主の世界の言い廻しを借りれば、「漁夫の利」というやつを狙った訳か?』

『ずるぃですぅ』

『確かにねぇ』



 出汁(だし)に使われたと感じた面々が口々に不満を表明するが、それはクロウとて同じである。



『ふむ……脇から勝手な(くちばし)を差し込まれるのは愉快じゃないな。少しお(きゅう)()えてやる必要もあるだろう。……ハンスたちに命じて、その「謎の部隊」とやらについて探らせるか』



 ――()くして、イラストリア王家の誤解に端を発した迷走の波はクロウにまで及び、結果としてクロウは自分たちの影を追いかけるよう部下に指示を出すという……笑うに笑えない展開となるのであった。

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