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第百八十四章 ヤシュリク 4.予想外の任務(その1)

 さて、そんなダールとクルシャンクの二人組が、イラストリアから遠路はるばるヤシュリクくんだりまでやって来たのは、遡れば二週間前に受けた命令に端を発していた。



・・・・・・・・



「……イスラファンへ?」

「そこで何を嗅ぎ廻れってんですかぃ?」



 王都に駐屯するイラストリア王国軍第一大隊、その大隊長室――非常時には王国軍総司令官室を兼ねる――に呼び出されたダールとクルシャンクの二人は、不吉な予感に囚われつつも、そう訊ねずにはいられなかった。

 何しろこの大隊長――兼、王国軍総司令官――殿ときたら、面倒な案件ばかり振って寄越すのだ。その共犯者たる副官のウォーレン卿が(かたわ)らに控えているのも、不安を掻き立てている一因である。「王国の剃刀(かみそり)」と呼ばれているそうだが、その剃刀(かみそり)は一体何を切ろうというのか。自分たちがその生贄(いけにえ)に捧げられるような気がして、どうにも落ち着かない二人であった。



「あぁ……まぁ……ちょいとばかりややこしい任務なんだが……」



 ――そら来た。



「まだ裏事情までは明かせませんから、任務の内容だけを端的に言います。海から引き揚げられたという触れ込みの品々が出廻っていないか調べて下さい」

「「……は?」」

「陶磁器などの食器には特に注意して。値段と品質なども確かめておくように」

「「……は??」」

「どの価格帯のものがどれだけ流通しているのか、あるいはいないのか。それを確かめるのが貴方たちの任務です」

「「……は???」」


 理解力が追いついていないという(てい)でポカンと口を開けたままの二人を見かねたのか、ローバー将軍が溜息混じりに説明を補足してくれ……ようとはしたのだが、何しろ滅多に明かせないような内容が多いため、全体的に要領を得ないものになったのも仕方の無い事であった。



「……詳しい(こた)ぁ言えねぇんだが、王国はとある人物の動向に注意を払ってる。ただ……こいつの動向を探るってのがまた面倒でな。数少ない手掛かりが……」

「……サルベージ品という訳ですか」

「まぁ、そういうこった」



 国王府はⅩことクロウの動きを探りたいのだが、有能とはいえ下級兵士に過ぎない二人に、Ⅹの事を――今はまだ――明かす訳にはいかない。どうしても煮え切らない説明になるのは避けられなかったし……それ以前にⅩの足跡を辿(たど)るのがまた難事であった。将軍の言うとおり、数少ない手掛かりがサルベージ品なのである。これ以外では砂糖というものもあるのだが、こちらにはノンヒュームたちも関わっているため、正しくⅩの動きを掴めるかどうかがあやふやなのであった。



「……その誰かさんがサルベージ品を売っ払ってんなぁ、確かなんで?」

「判らんな」

「ですから、それも含めて探ってほしいんですよ」

「「はぁ……」」



 どうにも面倒臭い任務を押し付けられたような気がする。それもひしひしと。



「……もう一つ。こいつぁまだ未確定な情報だし、色々と大っぴらにゃあできねぇんだが……」



 珍しくも(しば)し口籠もった後でローバー将軍が明かした内容は、



「……その人物は、テオドラムと敵対している可能性がある――ですか……」

「……ったく(ろく)でもねぇ……聞かなきゃよかったぜ……」

「テオドラムも薄々それに気付いてる可能性がある」

「問題の人物もそれは折り込み済みでしょうから、テオドラムの隣国であるアムルファンを避けて、イスラファンで活動している可能性もあるんですよ」

「ただ、別の筋からは、そいつがアムルファンで活動した形跡が示されている」

「なので、手始めにイスラファンを調べた後は、アムルファンに向かって下さい」

「ついでに言っとくと、沿岸国が黒幕か、あるいは一枚噛んでるって線も捨てられねぇ」

「敵地だと考えて行動した方が良いでしょうね」

「言うまでも()ぇが――くれぐれもお前らが探ってるなんて事を気取られるんじゃ()ぇぞ」

「頑張って下さいね♪」

「「うへぇ……」」



 げんなりした表情のダールとクルシャンク。やがて気を取り直したダールが、



「……そうすると、馬車で一旦バンクスまで出て、そこから西を目指す訳ですか?」



 長い旅になりそうだと思って確認したところが――



「馬鹿言え。そんなのんびりしてる暇なんぞやらん」

「飛竜で『神々の中央回廊』を越えてハイラント高原へにある第四大隊の駐屯地へ。そこから馬車を掴まえてヴァザーリに出て下さい」

「旅支度はこっちで整えておいた。さっさと出発しろ」

「「うへぇ……」」



・・・・・・・・



 ()くの如き次第で、ダールとクルシャンクの二人がトボトボとヤシュリクの町に現れたのが、カイトたちの到着するつい前日の事であった。

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