第百八十四章 ヤシュリク 3.予想外の援軍
「え? シャノアちゃんが来るの?」
クロウからの通達を受けたハンクが、その内容を仲間たちに伝えたところ、最初に返ってきた反応は〝意外〟というものであった。……まぁ、日頃からシャノアを可愛がっている――と言うか、甘やかしている――マリアなどは、意外な中にも歓迎の意を滲ませてはいたが。
「あぁ。意外な気はするが、考えてみればあの子も歴とした闇精霊だ。こういう状況だと打って付けかもしれん」
「俺ぁてっきり、シルエットピクシー辺りが派遣されるもんだと思ってたぜ」
「その件についてもお訊ねしてみたんだが……万一露見した場合の事をお考えになったらしい」
「……成る程な。街の真ん中にシルエットピクシーが現れりゃ、そりゃおかしく思われるわな」
「それだけでなく、モンスターとして討伐される危険性もある。ご主人様はどちらかと言えばこっちの方を懸念してらしたな」
相変わらず、身内にはとことん甘いご主人だ。――一同は苦笑を禁じ得ないのであった。
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『来たわよ!』
――という第一声とともに、闇精霊のシャノアがカイトたちの馬車――その実はダンジョン――の中に姿を現した。ダンジョンとダンジョンの間を繋げる、クロウのダンジョン転移である。
『さぁ! あたしが来たからにはもう大丈夫よ。早速そいつらの塒に案内して頂戴!』
ふんすという感じに宣言するちびっ子に、カイトたちも苦笑を隠せない。だが、その外見に反して、闇精霊という種族がこの手の事に有能なのも事実なのであった。
『んじゃまぁ、ちっとばかり案内してくるぜ。シャノアの嬢ちゃんが出て来るまで表で時間を潰してっから、帰りはちょいとばかり遅くなる』
『おぅ、解った』
――と、話が進もうとしたところで、
『……ちょっと待ってよ。何も宿屋の前で待ってる必要なんか無いわよ? そんな事してたら目立つんじゃないの?』
――と、疑問を呈したシャノアへの回答は、
『いやまぁ、そうなんだが……ご主人様が仰るにはな、嬢ちゃんが方向音痴で戻って来れない可能性もあるからって……』
『何よそれ!? 方向音痴なんかじゃないわよ!』
斯くして立腹したシャノアを説得するのに失敗したバート――と、仲間たち――は、シャノアを目的地に残したまま、まんじりともせず宿で待つ事になるのであった。
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『ただいま!』
そんな一同の心配などどこ吹く風とばかりにスルーして、無事シャノアが戻って来たのは、それから二時間ほどしての事であった。
『お帰り! 大丈夫だった? シャノアちゃん』
『マリアは心配性ねぇ。あたしがドジ踏む訳無いじゃない』
『……って事ぁ、上手く探り出せたって事か?』
『うん。あのね……』




