第百八十三章 過去からの証文 5.墓を訪ねて
エメンを催眠状態において、その知人である詐欺師の墓所を探り出す事に成功した翌々日、クロウたち一行は問題の墓所を尋ね当てていた。
『まさかバレン男爵の領地にあったとはな』
バレン男爵と言えば、シルヴァの森への侵略を企てた廉でクロウの怒りを買い、領軍二個中隊四百名を滅ぼされた上に領内での通商破壊戦を仕掛けられ……結果として時の当主が交代させられる羽目になったのが、かれこれ三年前の事である。
その領内のニンヴィクという町の外れ、そこが問題の詐欺師の墓所であった。ちなみに、ニンヴィクはバレン男爵領屈指の市場町であるとともに、阿漕な商いで稼いだ金がいつの間にか正当な所有者のもとへ戻っているという、銭返しの伝説でも知られている。
『ここがそうか?』
『へぇ、間違いありやせん』
エメンに案内された墓の前で、クロウが死霊術を行使してみると……
『……何となくだが、心残りがあって成仏できずにいるような気配がするな……』
憑巫となる屍体があって本人の思念が残っているのなら、クロウの死霊術で復活……と言うか、アンデッド化する事は可能である。善――註.クロウ視点――は急げとばかりにさっさと死霊術を行使した結果現れたのは……
「よぉ……かれこれ八年ぶりじゃねぇかよ、オッド」
「……エメンか? お前、何でここに……いや……それより、俺は死んだんじゃなかったのか?」
やや吊り目気味ではあるが気品ある顔立ちの、少し草臥れた感じの好男子がそこにいた。
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「……つまり……自分は死んだ後で貴方に蘇らせて戴いた……そういう事ですか?」
「その認識で間違ってない。ちなみにお前を蘇らせたのは、話を聞いてもらうのに都合が好かったからだ。こっちの都合で実体化させただけだから、俺の頼みを断ったからと言って塵に還すつもりは無い。忌憚無く判断してもらって構わない。……アフターケアまでは関知せんがな」
「はぁ……」
アンデッドとして蘇らせておきながら、その頼みを聞き入れるも断るも自由だという豪気な死霊術師に、オッドと呼ばれた凄腕詐欺師――の、アンデッド――も戸惑いを隠せない様子である。
「ま、良いからご主人様のお話を聞いてみるこった。きっとお前の気に入るからよ」
一足先に配下となったらしいエメン――の、アンデッド――が、妙に自信満々の口ぶりなのも気にかかる。取り敢えず話を聞くだけ聞いてみようと決めたオッドであったが……
「……すると何ですか? ご主人様は一国を相手取って経済戦を仕掛けており、その一環として、今度は土地を騙し取る事をお考えだと?」
「人聞きの悪い。証文自体にはちゃんと法的根拠があるんだ。正当な権利を主張するだけだが、その交渉に当たるべき人材が不足しているから、エメンの伝手でお前に話を持ちかけただけだぞ」
証文自体の正当性はともかく、権利を主張するのがダンジョンマスターとアンデッドというのはどうなのか。一掬の疑念がチラリと脳裏をかすめたが、そんな事などこの大仕事の前では些事に過ぎない。詐欺師の末席を汚す者として、かかる大計画に参加せずにおられようか。オッドの肚は既に決まっていた。
「喜んでお手伝いさせて戴きます」




