第百八十二章 テオドラムの蠢動? 2.クロウ(その1)
報告を受けたクロウも困惑した。
『……テオドラムのやつら、今度は何を企んだ?』
当のテオドラムが聞いたら、お前が言うなコールが盛大に湧き上がったであろう。
元を糺せばこれ全て、クロウが何の考えも無しに創り出した「誘いの湖」が原因なのだ。しかし、万事の元凶たるクロウにそんな自覚はついぞ無く、眷属たちと首を傾げているのであった。
『軍事行動に付随してのもの……という線は無いんだな?』
傍らに控える軍事顧問団擬き――ペーターを筆頭に、ダバル、ネス、クリスマスシティーといった武闘派の面々――にクロウが訊ねる。
『考えられません。ハンク殿の分析にもありましたように、他の軍需物資に動きが見られず小麦だけ、しかも敢えてこの時期に流通を絞る理由が、軍事行動という観点からは説明が付きません』
『……今思い付いたんだがな、農家の労働人員を大量に徴発する予定がある――というのはどうだ? 徴兵という事だが』
『まず、テオドラムの農業人口は過剰気味です。その受け皿として軍が機能している部分もある訳ですから。余剰人員を徴発して、その上に現在の労働人員まで徴発するとなると、一個連隊では収まりきれない程の規模になります。それだけの人数を一気に動員しても、彼らに与えるべき装備や施設が足りません。真っ当に機能している軍であれば、そんな泥縄な行動を取るとは思えません』
『ふむ……成る程な……』
そうすると、兵糧という線は消えそうだ。他に食糧の不足が予想される事態とは――
『人ではなく土地を徴発する……という事は考えられませんかな?』
――と、切り出してきたのはスレイであった。
『土地を?』
『成る程……何らかの理由で土地が必要になり、農地を強制収容する事にした可能性か』
『はい。如何でしょうか?』
一同暫しこの案を吟味していたが、
『……そういう場合だと、小麦の確保だけじゃなくて、土木工事の手配とかもされるんじゃないですか? スレイさん』
『ふむ……ウィンの指摘も尤もだな。そんな動きがあるのか?』
クロウの問いかけに対しては、
『……その……想定だと……作業員の……動員は……当該地区だけの……筈です。……はたして……王都にまで……情報が……届いているか……』
『つまり、ヴィンシュタットからは何も言ってきていない訳か……』
ヴィンシュタットの駐留員は先頃交代があったばかりである。そのドサクサで情報収集が滞っている可能性が無いとは言えないが……しかし、こういうネタを拾ってくるのは主にハクとシュクの筈だ。交代の影響があるとは思えない。
『……それもじゃが、土地の収用とやらが一地区だけであれば、こうまで小麦の流通を抑える必要は無いのではないか?』
精霊樹の爺さまが呈した疑義は、概ね妥当なものだと認められた。
『そうすると……次は凶作に備えての行動という点が挙げられるが?』




