第百八十一章 ヰー! 6.王都イラストリア(その3)
一口に一個小隊と言うが、この世界の平均的な編制では四個分隊から成っており、人数はざっと五十名。それだけの人員が密かに作戦行動に従事しているとなると、最早笑って済ませられるような状況ではない。
「分隊単位あるいは班単位で、何波かに分かれて来航したというなら――あり得ない話ではないかと」
「うぅむ……」
――そして、ウォーレン卿の不吉な指摘はなおも続く。
「黒幕がどこであれ、それだけの人員を理由も無く侵入させるとは思えませんから、Ⅹは当初から明確な作戦目的をもって、行動を起こしたという事になります」
「何……だと……?」
「……亜人たちが迫害を受けている様を目の当たりにして動いた――のでは……ないと言うのか?」
「母国にいる時点で既に迫害の現状を把握していた可能性はありますが、その場合も、Ⅹは明確な戦略方針の下に行動している筈です」
「つまり……テオドラムと遣り合うなぁ、最初から予定の行動だった――って事か……」
「そういう事になります」
「今回の襲撃も、予め練り上げられた予定に従っての行動であったと?」
「母国にいる段階で、こちらの状況を細部に亘って把握できていたとは考えにくいですから、ある程度の裁量権は持たされていると思います。現地の状況に臨機応変に対応しているとは思いますが、基本的な流れは遵守しているかと」
――違う。
クロウが指揮下に置いているのは、全てがこちらの世界でリクルートした人(?)材ばかりで、地球世界から連れて来た人員などいない。
況して、予めこちらの世界の状況を把握した上で活動方針を立ててなどいない。行き当たりばったりにその場の判断で行動しているだけである。
次から次へと巻き起こる予想外の事態に、泣き言恨み言世迷い言を云いながらも律儀に対応しているだけなのだが……その影響が想定外に大きいため、場当たり的な対処の結果とは思われないのも――クロウにとっては不幸な――事実なのであった。
そして――不幸なのはクロウだけではないようで……
「……てぇ事ぁ何か? これまでの件から今度の襲撃までを逐一洗い直せば、Ⅹの目的を推測できるって事か?」
「ふむ……Ⅹめが一貫した方針の下に行動しておるというなら、そういう事になるであろうな」
――行き当たりばったりだと言うとろーが。
「あくまでも、Ⅹが他大陸の住人であるという前提の話ですけどね。ですが、他に説得力のある作業仮説を見出せないようですから、暫定的にその仮定を採用してもいいのでは」
――その仮定というのが抑大間違いなのだが。
「Ⅹに従って作戦行動をとっている部隊も他大陸から渡って来たとすれば、船から上陸した後で、一団となってテオドラムまで移動した筈です。沿岸諸国を探れば、何らかの痕跡を残している可能性は高いでしょう」
「適当な理由を付けて探りに出すか。……ウォーレン、どういう理由をこじ付ける?」
「沈没船から引き上げたという古酒はどうでしょうか。あれは結構な攪乱要因になりましたから」
「ふむ……その線で然るべき者を送り出すか。宜しいですかな? 陛下」
「素より異存は無い。人選その他は任せる」
「畏まりました。今回は……あの……身振りと奇声という手がかりもございますれば、探索も少しは捗りましょう」
「それについては、民俗や風習に詳しい学者の協力を得た方が良いでしょう。できれば我が国だけでなく他国……特に沿岸諸国の学者の協力も必要かと。……適当な理由が必要になるでしょうが」
「それはこちらの方で何か考えよう」
「うむ、吉報を待っておるぞ」
「「「畏まりました」」」
――ご愁傷様である。




