第百八十章 王都イラストリア 4.国王府国務事情
「何? 早急な手配は難しいと?」
「各部署からそのような嘆願が上がってきております」
イラストリア王城の国王執務室。国王と差し向かいで話している宰相が述べているのは、先般国王が決定した大宴会の件であった。
国王府が一手に引き受けて貯め込む羽目になり、各方面で色々と物議を醸している危険物、古酒を一気に消費する機会を設けるべく国王自ら提案し、疑い混じりにといった体ではあるが一応承認された筈の大宴会。その準備に待ったが掛かっているのだという。
「いや……取り敢えず宴会を実施する事だけを決め、その口実を探す――もしくはデッチ上げる――ように命じただけではなかったか?」
――それのどこに問題が生じる余地があるのか?
「図書寮や典礼局が申しますには、どの程度の規模の宴会を想定しているのかが不明では、探し出すべき根拠の目安が付かぬそうで。要は国を挙げての大騒ぎに相応しいネタを探すのか、もう少し慎ましやかなネタでよいのか、それとも近隣諸国までを巻き込んだ大事件のネタを探すべきなのか――それが判らねば、手の着けようが無いとの事でしたな。言われてみれば真に尤も至極な話で」
「うむぅ……」
「諸外国を巻き込むとなると、これは外務部にも話を通しておかねばなりませぬ。また、規模の如何を問わず国内の貴族を招待するとあらば、内務部にも一言声をかけておく必要が出て参ります」
「うむ……」
「新年祭で宴会という話にいたしますと、なろう事なら三ヶ月前に関係各方面に通知しておく必要が出て参りましょう。となると、手続き諸々のデッドラインは九月という事に」
「さもあろうな」
具体的な日数の見当は付かなかったが、こういう事はなるべく早くに動いておいた方が良い――というくらいの事は国王にも解る。なればこそ早めに動くよう指示したのだが……
「ところが、でございます。今はほれ、冷蔵箱絡みのあれこれが真っ盛りでございまして……」
「あ……」
そこまで言われれば国王にも解る。今現在、内務部は洒落でなく〝死と隣り合わせ〟の状況に置かれている。新年祭の大宴会の話など、茶飲み話にも持ち込める状態ではない。下手をすると叛乱が起きかねない――というのは、冗談でも何でもないのである。
「……つまり……冷蔵箱の一件が完全に片付いてからでなくては……」
「話を持ち込む事さえ憚られましょうな。少なくとも、儂は御免蒙ります」
「う~む……しかし……」
「はい。そうなると今度は、新年会までに手配が間に合うのかという問題が出て参ります」
予定している冷蔵箱のお披露目までは一月半。後始末その他を終えてから宴会の話を持ち出すとなると……
「……新年会というのは……無理か?」
「かなり厳しいスケジュールになると考えざるを得ませんな」
「うむ……」
元々の国事予定になかったものを押し込もうというのだ。どこかに無理が出るとは思っていたが……まさか国一番のブラック勤務状況に置かれている内務部に、しわ寄せが行くとは思わなかった。
「宴会自体は行なうとして、その実施は後にずれ込みます事をご了承願わしく」
「……やむを得まい。その方向で調整してくれ」
「御意」




