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第百八十章 王都イラストリア 1.国王の居直り(その1)

「要するに貯め込んでいるのが問題なのだから、パーッと蕩尽(とうじん)してしまえばよい訳だ」



 唐突に妙な事を口走り始めた国王を、お馴染みの三人が(いぶか)しげに見つめる。

 ……このところ色々と心労が溜まっているとは思っていたが……気付かぬうちにここまで症状が進んでいたとは……



「……別におかしくなった訳ではない。妙な勘違いをするな」

「いや……充分おかしな発言でしたが……一体全体何の話なんで?」



 半信半疑を表情に貼り付けてローバー将軍が問いかけるが、国王の答えは――



「貯め込んでいる云々で察しが付こうが……古酒の事だ」

「……古酒をパーッと椀飯(おうばん)()()いして使い切ろうってんで?」

「そういう事だ」



 名案であろうと言いたげな国王であったが、三人の方は疑い深げな表情を隠さない。



「……どうやって使い切るおつもりでございますかな?」

「適当な理由で大宴会か何か催してだな、そこで振る舞ってやればいいであろうが」



 深い考えも無く、単に思い付きを口にしただけだと察した宰相が、はーっと深い溜め息を()いた。



「最初に申し上げておきますが、仮にも王家が〝適当な理由で〟大宴会などは開けませぬ。然るべき理由が必要となります」

「……季節の祭りで振る舞うのは(まず)いのか? 折良く夏祭りが迫っておるだろうが」



 この発言には、宰相だけでなく軍人二人までが、ギョッとした様子で国王に向き直る。この国で夏祭りと言えば七月の七日。……あと一ヶ月どころか半月もない。



「……陛下、幾ら何でも準備期間ってものが要りますぜ? (わし)は詳しくありませんが、料理や酒の手配から招待客の選定まで……なんぼなんでも無理じゃありませんかい?」

「イシャライアの言うとおりですな。目前になってそのような事を言われても、係の者が迷惑いたします」

「現実的な落とし所としては新年会でしょうが……事前に周知を徹底しておかないと、事情があって参加できない貴族たちからの突き上げが酷くなりそうですね」



 三者三様異口同音に駄目出しをされ、国王も短絡が過ぎたかと反省する。だがしかし、本質的な部分に間違いは無い筈だ。夏祭りが無理でも新年会なら……



「その場合も、然るべき理由が必要になりますね」

「新たな歳の訪れを祝って……というのではいかぬのか?」

「来年だけ例年と違う理由が必要になるのでは? 今後毎年古酒を振る舞うというのなら別でしょうが」

「むぅ……」



 さすがにそこまでの量は貯め込んでいない。



「……〝然るべき理由〟とやらに心当たりは無いか?」



 本末転倒した話に三人は呆れ顔であったが、それでも一応考えてはみた。いい加減古酒がお荷物になりつつあるのは事実。打開策があるというなら、多少頭を使うくらいは許容できる範囲である。



「……王家主催の晩餐会で特別な事情ってぇと……おめでたとかご成婚とかじゃねぇんですかい?」

「……誰がおめでたで、誰が結婚するというのだ?」



 ローバー将軍と国王は、士官学校の同期にして同い年である。ともに不惑の年も越えたというのに、今更おめでただの結婚だのは無いだろう。



「……いや……一介の田舎貴族と王家じゃ、事情ってもんが違うでしょうが。ご側室でも何でもお迎えになりゃいいじゃねぇですかぃ」

(いたずら)に後継者問題を複雑化させるような真似ができるか。ただでさえ色々と頭が痛いのだぞ?」

「すると、残るはお子様方の慶事という事になりますが……?」

「上の子でさえやっと十になったばかりだ。懐妊問題など起こさせて(たま)るか」

「ご成婚とか縁談とかってなぁ無しですかぃ?」

「王族の婚姻となると、そう簡単に進める訳にもいかんのでな」



 筋の通った反論に、ローバー将軍も沈黙せざるを得ない。



「……まぁ、新年祭まではまだ間がありますし、この問題はもう少し考えてみるのがいいでしょう。いざとなれば適当な理由をでっち上げれば済む事です」

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