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第二十一章 王都イラストリア 2.王国軍第一大隊

王国側の困惑と頭痛の始まりです。

 モロー調査チームが飛竜(ワイバーン)に託して届けた物、そして後日にバレンの冒険者ギルドから聞き出した内容は、ローバー将軍とウォーレン卿に、文字通りの激震を与えた。未知の技術を持つ、正体不明の何者か――恐らくは国や種族の可能性が強い――が存在する。しかも、モローのダンジョン跡地に忍び込んで、ダンジョンコアを回収していった可能性がある。

 その目的や意図は不明であるが、反ヤルタ教の一派と連携している場合、事と次第によっては王国に敵対する可能性がある。



「……相手の意図は不明だが、その検討は後回しだ。何はともあれネタがなきゃ検討しようにも話が進まん。まず足跡から始めるか」

「そうですね。オンブリーたちが帰って来ないと本格的な分析はできませんが、できるところまで進めておきましょう。まず、この刻印ですが、オンブリーが懸念していたような魔法陣ではないようです。信用のおける幾人かの魔術師に見せたのですが、魔法陣としての体裁(ていさい)をなしていないそうで。魔族の魔法陣や魔印とも違うそうです。あ、当然口止めはしておきました」

「ふむ。魔法陣じゃねぇてこたぁ……滑り止めか」

「出入りの靴屋にそれとなく聞いてみたんですが、(びょう)のように点でなくて曲線または面で地面を(つか)むため、滑り止めの効果はより高いだろうと言っていました。ただし、実用化の目処(めど)は立ってないとも言ってましたが」

「実用化できない理由は何だ?」

「一言で言えば素材です。ある程度の柔軟性を保ちつつ、刻印を施せる素材の当てがないそうです。ワニなど凹凸のある動物あるいはモンスターの革を靴底に貼って、滑り止めにした例はあるそうですが、材料費と加工の手間で割に合わんとかで」

「と、いう事はつまり、この連中は……」

「画期的な素材とその加工技術を手にしている、そういう事ですね」

「素材の見当はつかんのか?」

「分析担当者の話じゃ、靴底が少しすり減った形跡があるそうです。それほど堅牢な素材じゃないようですね」

「そいつは朗報なのか?」

「残念ながら。柔らかいという事は、曲がりやすいという事です。靴の柔軟性は確保されている、すなわち歩きやすいと考えた方がいいでしょう。あ、ちなみにすり減っている様子から、(びょう)の代わりに特殊な形状の金具を打った可能性は棄却されています」

「金具で代用はする事はこの国でもできるだろうが、技術格差を縮める事にはならんか……他には?」

「オンブリーも言っていましたが、こういった素材を探し出し、加工できるという事は、それ以外の技術も相当に高い事を示唆しています」

(わし)ら以上に進んだ技術を持つ敵か……」

「敵とは限りませんが?」

「軍人が交戦のケースを想定せんでどうする。敵対した場合を考えるもんだ。他には?」

「刻印が摩耗しているようなので確かではないそうですが、刻印を施すにあたって刃物で刻んだような痕跡はないそうです。削った後で研いだ可能性は否定できないそうですが、いずれにせよ製法は不明だそうです」

「不明な点が多すぎるが、今は仕方あるまい。次はダンジョン跡の件か」



 足跡の件も頭が痛いが、勇者に討伐されたはずの「モローのダンジョン」の件もまた、将軍たちに困惑をもたらすものであった。



「討伐された筈のダンジョンが本当に死んだのかどうか判らんたぁ、一体全体どういう意味だ?」

「文字通りの意味です。ダールたちがバレンの冒険者ギルドに確かめたところ、ダンジョンコアを砕いた後でダンジョンが崩壊し始めたので、馬鹿勇者たちはダンジョンコアを回収せずに脱出したらしいです」

「そんな状況でなぜ、ダンジョンの討伐完了を宣言した?」

「馬鹿勇者たちの主張と、その後でダンジョンに(おもむ)いた際にもダンジョンの魔力が感じ取れず、ダンジョン自体もボロボロになっていた事から、討伐されたと判断したそうです」

「死んでなかったってのは、どっからでてきた?」

「オンブリーのやつが、もしダンジョンが傷を負って仮死状態になった場合はどうなるのか問い詰めたそうです。ギルドマスターの言うには、そんな状態になったダンジョンを見た事がないから何とも言えないが、瀕死のダンジョンなら死んだのと同じように見えるかもしれないとの事です」

「無責任のような気もするが……ギルドとしての判断は妥当か……」

「実際にこれまで活動が見られなかったわけですから、ギルドの判断が間違っているとは言えません。公平に見れば、むしろオンブリーの意見の方が言いがかりに近いでしょう」

「ともあれ、(わし)らとしてはダンジョンコアが死んでなかった場合を考えなきゃならんわけだ」

「瀕死あるいは仮死状態のダンジョンコアを何者かが回収した。何のためか」

「ダンジョンを造る以外に、ダンジョンコアの使いどころは無ぇだろう」

「どこに、ですか?」

「うん? モローの新しいダンジョンじゃねぇのか?」

「出現した新たなダンジョンは二つ。瀕死のダンジョンコア一個で造れるとは思えません。肥やしにした可能性は否定できませんが……」

「他の何に使うってんだ?」

「新たにダンジョンを造るために。杞憂(きゆう)だといいのですが……」

明日もこの足跡が巻き起こす騒ぎが語られます。

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