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第二十一章 王都イラストリア 1.モローからの急報

第一大隊から派遣された二人が、モローの旧ダンジョンで見つけたものとは?

 深夜だというのに第一大隊司令部では、モローから送られてきた魔道具による緊急通信に大隊長ローバー将軍自らが応答している。



「だから、落ち着け、ダール。理由を説明しろ」

『だからっ、魔術による盗聴の可能性がある以上、ここで詳しい話はできません! とにかく! 大隊中、いや王国で一番足の速い飛竜(ワイバーン)を二頭、いや三頭、早急に送って下さい!』

「理由も判らずにそんな事ができるか!」

『大将っ! いいからダールの言うとおりにして下せぇ! こりゃ冗談なんかじゃねぇ。下手すると王国、いや世界が揺らぎやす!』



 さすがにただごとじゃないと判断したのか、将軍はとりあえず彼らの言うとおりにする事を決める。機にあって果断、歴戦の猛将と言われた人物だけに、一旦決めると動きは速かった。



「よしっ。何だか解らんが、とりあえず貴様らの言うとおりにしてやる。その代わり、下らねぇ内容だったら、その首は胴体についてぇねと思え!」

『ありがとうございます! あと、オンブリーのやつを寄越(よこ)して下さい!』

「オンブリーだぁ? あいつをなぜ……いや、解った。すぐに送る」



「どうやら無事に増援を寄越(よこ)してもらえそうだな」

「まったく。早いとここいつを手渡さねぇと、おちおち眠れやしねぇ」



 二人の視線の先には土魔法で固めた泥の塊があった――ワークブーツの足跡(・・・・・・・・・)がしっかりと刻まれた泥の塊が。



 ただの足跡に二人がこうまで動揺したのには訳がある。


 この世界で靴と言えば木靴か革靴で、歩きやすいのは革靴だがその分高い。ゴムなどは発見されていないから革靴の底も革製で、傷みやすいのと滑りやすいのが難点である。軍などでは靴底に鉄製の(びょう)を打って滑り止めにしているが、濡れた岩場や石材の床では依然滑りやすいし、(びょう)が抜け落ちる事もしばしばで、手入れは一層面倒になった。見つかった「足跡」のような模様を靴底全面に刻む事は、とてもじゃないができはしない。……その筈であった。


 ちなみに、クロウが履いているワークブーツは、靴底さえ見なければこの世界の革靴と――異国風ではあるが――大差無いため、本人も周囲もこの問題点に気づいていない。本人が飛行魔法を連発してあまり地面を歩かないのも、問題の露呈を遅らせている。エッジ村の住民は、単純に異国ではそんなもんかと思っているだけである。要は、「異邦人」の情報を持っているかどうかの違いであった。



「どうやって刻んだんだろうな」

「金属板か何か靴底に貼り付けりゃ……駄目か、その分重くなるし、爪先が曲がらなくなって歩きにくくなるのがオチだな」

「あぁ、手入れも面倒になる。兵士としちゃ悪い事の方が多い。この模様が何のためかは判らんが、滑り止めとしては役立ちそうだ」

「ま、そういうこたぁオンブリーのやつが何とかするだろうよ」



・・・・・・・・



「お前ら……一体、何て物を見つけたんだよ」



 第一大隊から追加で派遣されてきたオンブリーという若い男は、呆然として泥の塊を眺めた。



「お前の見立てはどうだ? オンブリー」

「間違いなく靴の跡。それも、見た事もない、いや、これまでに知られていない靴跡だ。この刻印が何かは解らんが滑り止めか、あるいは魔法陣の一種だろう」

「おいおい、滑り止めと魔法陣じゃ大分違うじゃねぇか」



 二人は滑り止めの事ばかり念頭にあったため、魔法陣という可能性にはまったく思い至らなかった。



「今まで知られていない代物だぞ。靴跡一つで判断しろってのは無理な話だ」

「それもあってお前を呼んだ。この現物はすぐに大隊へ送りつけるが、お前には俺たちと一緒にこのダンジョン跡を調べてもらいたい」

「よし、時間が惜しい。さっさと始めよう」


「なぁ、オンブリーよ。あの足跡の主ってなぁ、一体どんなやつだと思う?」

「憶測にしかならんぞ? まず、これまで全く知られていなかった事から考えて、人間・エルフ・獣人のどれでもないだろう」

秘密裡(ひみつり)に開発していたという可能性は?」

「なぜ隠す? そして、なぜここでそれを明かす? ここまで見てきた足跡からは隠そうという意思が感じられなかった。それに、確かにあの刻印は有用なものかもしれんが、足跡が残っていたらそれを研究するのは難しくない。隠しておいても割に合わないんだ」

「続けてくれ」

「あぁ、問題なのは隠されていた技術じゃない。そういう技術を、これまで表舞台に出る事なく、隠し持っていた国あるいは種族がいる、その事が大問題なんだ。下手をすると国々の勢力図が変わりかねん」

「あの技術そのものも充分以上に脅威じゃないのか?」

「技術というのは積み重ねだ。あの技術が単独で存在するとは思えん。あんな技術を開発できる国または種族こそが脅威なんだ」

「で? その国または種族ってなぁどいつなんだ? それが聞きてぇんだが」

「憶測だぞ? 既知の勢力――人間・エルフ・獣人――のどれでもないとすると残るは……」

「魔族か?」

「魔族に靴を履く習慣があるのかどうか知らんがな。単に他に思い当たる種族がない。未知の種族である事も含めて、仮に魔族と呼んでおくだけだ」



 話しながら三人は、旧「モローのダンジョン」の最奥部に到達した。



「ここだ。あの足跡はここで見つけた」

「なるほど、ここだけ水が溜まって泥濘(ぬかるみ)になっているな。それでここだけ綺麗に足跡が残ったのか。足跡は一人分だけか?」

「あぁ、注意して探し回ったんだが、他には見つからなかった」

「ふぅん……足跡はまっすぐに最下層を目指していたな」

「あぁ、だから問題の何者かは、この最下層が目的だったとしか思えん」

「ダンジョンの最下層っていやぁ、ダンジョンコアがあるものと相場は決まってるんだがな」

「どこにあったんだ?」

「さぁな。どのみちあの勇者様がここを討伐した時に持ってっちまっただろ」

「確認したのか?」

「あ? いや、しかし、ダンジョン討伐してダンジョンコア放っておくなんて酔狂なやつぁいねぇだろ?」

「よく見ろ。天井が崩落した跡がある。ひょっとしてだが、討伐した時にダンジョンが崩れたんじゃないか?」

「待て、そうすると……」

「勇者様はダンジョンコアを取らずにご帰還あそばしたって事か?」

「確かめる必要があるだろうな」


もう一話投稿します。

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