第一章 洞窟 7.レベルアップのからくり
今回更新分の最後です。
洞窟からマンションに戻って以来、妙に体の調子がいい。悪い事じゃないんだが、その原因がなぁ……。覚悟を決めて鑑定してみるか。
【個体名】烏丸良志(からすまる・ながゆき)
【種族】人間? ダンジョンコア? ダンジョンマスター?
異世界からこちらの世界に移動した際の衝撃で、たまたまダンジョンコアと融合した異世界人。融合したダンジョンコアがまだ未熟なものであったため得たスキルは少ないが、その後の度重なる移動に伴って身体に膨大な歪みを蓄積した結果、常識外の魔力を保有するようになった。ただし、現時点では魔力放出系の魔法スキルを得ていないため、魔力の使用は制限された状態にある。
【地位】ダンジョンの怪人
【レベル】4
【ユニークスキル】「壊れたダンジョン」 レベル2
自分を起点とした半径十五メートルの範囲内にダンジョンを設置できる。設置できるダンジョンの規模はレベルに依存する。また、自分で設置したダンジョン内を瞬時に移動できる。また、自分で設置したダンジョン間にダンジョンゲートを設定する事で、ダンジョン間を自在に移動できる。ダンジョンの内部構造を任意に変更できる。
【スキル】異言語理解 鑑定 従魔術 眷属強化 念話
何もしてないのにレベルが上がっている。異世界を往き来しているせいもあるんだろうが、それだけじゃない気がする。うちの子――従魔たち――のレベルアップのことを考えると、向こうで食べた猪が怪しい。あいつらが地球のものを食べてレベルアップするなら、俺は向こうの世界のものを食べてレベルアップするんじゃなかろうか。だとしたら、これは大きなアドバンテージだ。向こうでせっせと食事をして、レベルアップにいそしもう。
そういう事なら調味料だ。「さしすせそ」くらいは準備しておこう。確か砂糖・塩・酢・醤油・味噌だったかな。味噌は保存が面倒だから、代わりに胡椒なんかの香辛料を向こうの世界に持って行こう。これだけあれば肉も美味しく食べられるだろう。
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さて、レベルアップのからくりが判ったところで、今度は俺のスキルについて調べておくか。ただのスキルの方は何となく解る。問題なのはユニークスキル、「壊れたダンジョン」ってやつの方だ。
ダンジョンの壁を動かすっていうのは、キーンの猪狩り騒動の時に試してみたから何となく解る。自分の周りにダンジョンを設置できるってのはどういう事だ? これは向こうの洞窟内じゃ試せんな――あそこは既に俺のダンジョンになってるらしいし。マンションの中で試すのも物騒だな。地球で魔法が使えるのかどうか、使えたとして効果はどうなのか、異世界と変わらない威力なのか、不明な事が多すぎる。誰かに見られたり気づかれたりしても面倒だ。
向こうの世界で洞窟を出てから試すしかないか……いや?
心の奥に意識を向けると、このスキルがどういうものなのかがおぼろげに浮かんでくる。ダンジョンとは要するに、魔力溜まりでダンジョンシードが発芽成長してできるものらしい。シードが自分の魔力で周辺をダンジョンに造り変え、成長したシードがダンジョンコアになるようだ。本来のダンジョンは条件の揃った場所で成長するのを、俺は条件云々を無視して、しかも不完全な姿での構築もできるらしい。あぁ、だから「壊れたダンジョン」なのか。完全な形でダンジョンを構築するにはスキルレベルも魔力も必要になるが、不完全なダンジョンならスキルレベルが低くても造れるし、魔力も消費しないという事か。
けど、不完全なダンジョンって何の役に……いや、待て。
おおぅ、駄目元でやってみたらこっちでもできたよ、ダンジョン壁の生成。材料には鉢植え用の土を使ってみたんだが……見た感じはダンジョン壁と同じだな。で、これを自由に変形できるなら、と……はい、できました。破壊不能のダンジョン壁製のナイフ。……いや、いやいや、いやいやいや、これ、洒落にならんぞ。
……ちょっと落ち着こう。こいつは土に戻して証拠隠滅。うん、ダンジョン壁なんて無かったんだ。気のせいだ、気のせい。
ダンジョン間の移動というのは、複数のダンジョンを支配しているダンジョンマスターが、支配下のダンジョン間を移動するのに使うスキルらしい。ダンジョンゲートっていうのを開くのか。俺はこのスキルを、不完全なダンジョンとの間でも使えるって事は……不完全なダンジョンを目印にして飛べるって事か? 要するに、一回行った事のある場所に目印を打ち込んでおけば、いつでも即座に移動できるわけだ。便利には便利だが、最初の一回目の移動だけがネックだな。
このスキルは結構使えそうだ。俺の生命線になるかもしれないから、できるだけレベルアップさせておきたい。ラノベを読んだ限りではスキルの上達には反復練習が一番らしい。できるだけ使ってスキルアップを目指そう。魔力の増大は食事に頼ろう。調味料と香辛料、ついでに調理道具も持って行って、向こうの肉や木の実を食い荒らそう。うん、とにかくいろいろ試してみるとするか。これは楽しみだ。
明日は二話更新の予定です。