第百七十八章 テオドラム 6.テオドラム王城(その6)
――この質問は一同の不意を衝いた。
「……あれは……『ピット』のモンスターだったのか……?」
「確証は無い。無いのだが、生き残った兵士からの報告を読んだ限りでは、『ピット』に出ると言われているモンスターと酷似していたそうだ」
「………………」
重要な、そして看過し得ない指摘であった。
「『ピット』とグレゴーラムの距離は……えぇと……」
「直線距離にして約二百五十キロ。浅学にして知らんが、ダンジョンマスターとはそこまでの範囲を支配できるものなのか?」
外務卿の指摘に、難しい顔付きで考え込む一同。
「……黒いスケルトンワイバーンで見せた手並みでモンスターを送り込んだとしても……」
「『ピット』がなぜそうまでしてモンスターを派遣したのか――という問題は、依然として残るな……」
「そうすると……今回消息を絶った密偵たちも……」
「我が国の手の者だと知った上で消されたのかもしれん……」
「要するに……」
「ダンジョンマスター同士の連合のようなものがあるというのか?」
ただ一人のダンジョンマスターが亜人どもに肩入れしているだけだと軽く見ていたが……もしも複数のダンジョンマスターが手を結んでいるのだとしたら……
「……厄介な事になるな」
今の今まで、ただ一人のダンジョンマスターが亜人との絡みで敵対していたのかと思っていたのだが、そうでないとするとこれは……
「……大幅な方針の転換が要求されるぞ……?」
「ダンジョンマスター一個人の意向と言うより、もっと大きなスケールでの戦略に従っている可能性も無視できん」
「……いや……逆に言えばこれは……これはダンジョンを巡って、イラストリアと共闘できる可能性も出てきたのではないか?」
「……イラストリアが先んじてダンジョンマスターと誼を通じているのでなければ、な」
この場で結論を下すには、あまりにも情報が不足していた。
「……モローを探らせるか?」
「しかし、再度密偵を送り込むにしても、できる事には限度があるぞ?」
「現状でイラストリアとは国交が無い。国の次元で動くのは難しいだろう」
「……イラストリアの冒険者ギルドに、モローのダンジョンに関して問い合わせるのはどうだ?」
「どういう名分で? 繰り返すが我が国は、イラストリアと国交を結んではおらんのだぞ?」
「だからこそ、王国ではなく冒険者ギルドなのだ。イラストリアの冒険者ギルドに対して、再度講師の派遣を依頼する」
「講師の派遣? ……前に一度依頼した事があったな。ダンジョンについての講習会の時だったか」
「今度はどういう名目をでっち上げるつもりだ?」
マンディーク商務卿の提案に、他の面々も興味を示す。
「でっち上げとは人聞きの悪い。正当な理由あっての事だ。何しろ我が国は、このところシュレクに岩窟と、立て続けにダンジョンの発生に見舞われておるからな。同じように突如として出現したモローのダンジョンについて知りたいと言っても、何も不自然な事はあるまい?」
「……成る程。理屈は通っているな」
「併せてだ、この際ダンジョンができ易い場所であるとか、今後予想される出現位置とかについても知りたいと言えば……」
「……再度の講師招聘の理由にはなるな。充分に」




