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第百七十七章 密偵受難曲 7.密偵たちの奮闘(その1)

『さて……あいつらの現在位置からして、最初に接敵しそうなのはどいつだ?』

『今の位置ですと……マゴロットでしょうか』

『マゴロット……ハンミョウの幼虫みたいな待ち伏せ型のモンスターだったな。……ロムルス、くどいようだが確認する。――殺さないように言ってあるな?』

『はい、折角の実験体なのですから。他の者にも経験を積ませる必要があるため、自分だけで殺したりしないようにと言い含めてあります』

『罠も解除してあるな?』

『勿論です』

『よし、それならいい。……さて、テオドラムの冒険者殿のお手並みを拝見するか』



 ――などという身も蓋も無い談合が、裏で交わされているなどとは思いもせず……



「……おい、随分と分岐や屈曲の多いダンジョンだな」

「あぁ。それに、道幅が狭い」

「うむ。『災厄の岩窟』とは色々な点で違いがあるな」

「報告書にはその事も書いておく必要があるだろう」



 無事生還できる事を少しも疑っていないような会話であったが……そんな太平楽な態度もすぐに吹き飛ぶ事になった。



「うわぁっっ!」

「な、何だコイツは!?」

「ば、化物だっ!」



『……いや……ダンジョン内で何だもないだろう。ダンジョンモンスターがいる事ぐらい、予想しておけよ』

『何だか妙に浮き足だっていますね?』



 密偵たちの前に姿を現したのは、先程クロウも言っていたマゴロットという幼虫型のモンスターであった。地面を突き破る形で突如として現れたのだが……



『……不意を()かれて驚いたんでしょうか?』

『いや……確認した後も変わらず(うわ)()っているようだが……あいつら、腰を抜かしたんじゃないのか?』

『不用意に危害を加えるなと言ってありますから、ただ出てきただけなんですけどねぇ……』

『〝お化けだぞ~〟って感じだったよな。〝いないいない、ばぁ〟というか……』



 ここで少しばかり密偵たちの事情を踏まえて解説しておくと……原因は双方の認識の(かい)()にあった。

 まずクロウの方であるが、現代日本人である(からす)(まる)(なが)(ゆき)の基準からすれば、モンスター則ち怪獣とは、高層ビルを壊しながら進撃するのがデフォルトである。彼の中ではゴ○ラだのガ○ラだのモ○ラだのが基準(スタンダード)となっているため、たかだか全長七メートル程度、しかも細長い体型なので全幅は大柄な人間程度の幼虫に、何をそこまで狼狽(うろた)えているのかという目で見ているのだが……全長七メートルの怪虫が出てくれば、そりゃ驚かない方が不思議である。ちなみに、すっかりクロウに毒されている眷属たちは、何の違和感も抱いてなかったりする。

 次に密偵たちであるが、彼らの出身はテオドラム。森林のほとんどを伐採したため、国内に現れるモンスターはほとんどいない。……言い換えると、モンスターの実物と遭遇した経験など無きに等しい。幾つか聞き知っているモンスターも、少し大きめのイノシシ・オオカミ・クマといった形態のものがほとんどで、ワームタイプのモンスターの事は知識としてすら知らなかった。()してや、体長七メートルに(なんな)んとする捕食性の昆虫など、彼らの想像の埒外(らちがい)にあったのである。

 そして三つ目の原因として、ここ「還らずの迷宮」の特殊性があった。比較的狭い通路で構成されているために、よもや()くも大型のモンスターが出るなどとは――これは冒険者ギルドの方も――想像すらしていなかったのである。洞窟の入口より――幅はともかく長さは――巨大なモンスターが待ち構えているなど、誰が想像するというのだ。ダンジョンロードとなったクロウが有り余る魔力に物を言わせて召喚しているなどとは、密偵にしろ冒険者ギルドにしろ、予想すらしていなかったのであった。(もっと)も、クロウの側もそれを考慮して、狭いダンジョン内で活動できるモンスターを手配するのに知恵を絞ったのであったが。



『警戒ぶりが堂に入っていたから期待していたんだが……』



 這々(ほうほう)(てい)で逃げ出した密偵たちを、残念そうに見送るクロウ。



『……これだと、対冒険者戦の訓練にはなりそうもないな』

『奇襲がどの程度成功するかだけに絞りますか』

『それがいいかもしれんな』


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