第百七十七章 密偵受難曲 4.密偵たちの処遇
(何でテオドラムの財務局が「還らずの迷宮」に興味を持つのかは今ひとつ解らんが……取り敢えず、興味を持っているという事実だけは念頭に置いておくとして……)
いや……「事実」などではないのだが。
『あの連中をどうしたものかな?』
『どう――って……どういう事なのよ? クロウ』
『文字どおりの意味だ。解り易く言い換えれば、生かして帰すか、それとも殺すかという事だな。後者の場合は更に、アンデッドとして雇用するかどうかも考える必要があるが』
クロウの指摘は少なからず皆を驚かせた。生かして帰すという選択肢は、誰一人考慮しなかったようだ。
『……仁徳に目覚めたという訳でもなさそうじゃのぅ』
『俺はダンジョンマスター改めダンジョンロードだぞ? 敵国の兵士の事など、考えてやる必要は無いだろうが。ただな、やつらが軍の下っ端じゃなく、財務局の手先だという事を考えるとな』
『何が違うのよ?』
精霊シャノアにとって、国内の森を破壊し尽くしたテオドラムなど、野蛮人――もしくは害獣――以外の何者でも無い。敢えて生かして帰すというクロウの提案は、心情的に納得できないようだ。
『いやな、テオドラムの中枢部に手駒を送り込む機会がやって来たと考えたら……な』
『あ……』
あぁ成る程――という表情を浮かべる一同。
クロウの死霊術でアンデッドにしてしまうと、生前とは容貌まで代わってしまう。なのでこの手は使えないが、本人に気付かれないように暗示をかけるくらいの事はできるかもしれない。クロウがその技術を持たなくても、ネスやダバル辺りなら心得ていそうである。それ以外にも、盗聴器のような魔道具をくっ付けて帰すという手も考えられる。総じて一考に値する提案のように思えた。
『けど主様、今まで誰も戻って来なかったのに、いきなり三人も戻ったら……』
『むぅ……目立つ、か』
二人を殺して一人だけ生還させるという手も無いではない。ただ、どちらにしても「還らずの迷宮」の情報を持ち帰らせる事になる。あまり面白くはない話である。
『ふむ……コストパフォーマンスが悪過ぎるか』
『こす……何?』
『あぁ、手間の割に見返りがショボいという事だ』
この見解には眷属たちも揃って同意する。ならばアンデッドとして雇用するか?
『……正直なところを申し上げれば、あまり食指は動きません。冒険者としての技量を加味しても、兵としての練度がお粗末です』
『冒険者としてみても微妙ですね。どうもこいつら、ちゃんとしたパーティとかじゃなくて臨時編成っぽいんで。役割の分担とか連携とかが熟れてねぇんでさぁ』
――と、ペーターとニールからも駄目出しを喰らう。
『……ダンジョンに吸収するしか無いか。しかし……折角の獲物なんだよなぁ』
何とか有効利用できないかと考えていたクロウの脳裏に、天啓のごとく閃くものがあった。
『……確か、ここのダンジョンモンスターたちから、仕事が欲しいという要望が出ていたな? こいつらを使えば実地訓練と評価ができるんじゃないか?』




