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第百七十七章 密偵受難曲 1.密偵たちの登場

 クリムゾンバーンの革について丸投げされたダイムが村で呻吟(しんぎん)している頃、クロウの側も一つのイベントに見舞われていた。正確に言えば、イベントの舞台に選ばれたのは、ロムルスの指揮する「(かえ)らずの迷宮」なのであるが。


 そのイベントは、テオドラムからの密偵の登場という形で始まった。



・・・・・・・・



「ある程度は予測していたが……」

「ここも結構な人出だよな……」

「まぁ、シャルドに較べたら大人しいんだろうが……」



 ウンザリとした表情を隠しもせずに「(かえ)らずの迷宮」の入り口を眺めているのは、テオドラムから訪れた三人の密偵たちである。

 色々と頭を抱えさせられたシャルドの現状を見て、ここではこれ以上の情報収集は難しいと判断。その足でモローへと向かって三日、いざダンジョンを実見したところで……ここでも再び頭を抱える羽目になった。シャルドの封印遺跡とまではいかないにせよ、ここでもダンジョンを――正確にはその入り口付近を――訪れた観光客がそれなりに多かったのである。



「……冒険者ギルドの前に案内板があったから、嫌な予感はしていたんだが……」

「危険箇所の注意って感じじゃなかったからなぁ……」



 そう。彼らの言うとおり、モローの冒険者ギルドの前には立て札があった――観光案内板としか言いようが無さそうな代物が。

 そこには、モローの双子のダンジョンこと「(かえ)らずの迷宮」と「流砂の迷宮」についての説明が記載され、くれぐれも内部に入り込まないようにとの注意と――そして、冒険者ギルドが案内人を斡旋(あっせん)する旨が記載されてあったのである。どちらかと言えば後者に力点が置かれているような気もしたが、案内人を付けておけば何も知らない観光客がうっかり中に入るような事態も回避できるので、一石二鳥というのは理解できる。

 何しろ、一大観光地と化したシャルドへの道筋にあるという事で、モローもそのお(こぼ)れに(あずか)る形で今の盛況を享受している。そんなモローには観光資源と言えるようなものは少ないが、双子のダンジョンはその数少ない例外なのだ。ここで不祥事など起こされて、折角の観光資源に悪評が立つような事態は避けたい。

 そういうモロー当局と冒険者ギルドの思惑が一致した事もあって、現状モローのダンジョンでは不祥事は起きておらず、怖いもの見たさの観光客は安全な距離から国内有数の危険ダンジョンを見学するという、(いささ)か奇妙な事態になっていたのであった。


 なお、当のダンジョン側はと言うと、ダンジョンの周辺にまでフィールドを拡張した事で、観光客たちから様々な情報を聞き取る事ができており、ついでに魔力や活力の類も回収できるとあって、それなりにwin-winな関係に満足していた。一人々々から回収できる魔力や活力は――気付かれない程度に抑えている事もあって――僅かだが、それも結構な人数から毎日のように回収できるために、それなりの量となっていたのである。



 話を密偵たちに戻すと、



「……モローでも現状の報告だけして終わり、なんて事は……」

「許しちゃもらえんだろうな。任務不達成と怠慢で懲罰ものだ」

「……まぁ……こっちはシャルドと違って警備も厳しくないようだし……見物人がいなくなる夜なら、潜り込めない事も無いだろう」



 ――などと、この国の冒険者が聞いたら正気を疑うような相談をしていた。


 イラストリアの冒険者ギルドは双子のダンジョンへの進入を禁止しているが、テオドラムから来た密偵たちはそんな事は知らないし、仮に知ったとしても気にしないだろう。彼らにとっては、本国での懲罰の方が差し迫った問題に思えていたのである。



「何も調査せずに帰国したら懲罰ものだしな。ギルドの立て看板に説明があったから、最低限の情報は手に入った訳だが……これだけでは満足してもらえんだろうな」

「うむ。とは言え、危険なダンジョンなのも間違い無さそうだし、入り口付近を少し探ってお茶を濁そう」

「あぁ、それで充分だろう」



 ちなみに、彼らが()(よう)に能天気な判断を下す事になったのは、国内にダンジョンが少ないというテオドラム特有の事情が関わっている。

 彼らが知識として知っているダンジョンは三つだけ。国境付近のイラストリア領内にある「ピット」、シュレクにある「怨毒の廃坑」、そしてマーカスとの国境線上にある「災厄の岩窟」だけである。しかも、知識として知っているだけで、実際に現地に赴いた事は無い。

 そんな彼らの判断によれば、モローのダンジョンではダンジョンモンスターたちが外に狩りに出てくる事は無いようだし、毒や怨霊の事も報告されていない。ならば消去法で「岩窟」タイプに違い無い。ゆえに、奥へ行かない限り危険は無い――という噴飯(ふんぱん)ものの論法であった。その「災厄の岩窟」にしても、リピーターを確保するためクロウが手加減している――普通のダンジョンではこういう事は無い――事など、彼らの貧困な想像力の埒外(らちがい)にあったのである。


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