第二十章 モロー 2.エルギン男爵領冒険者ギルド
エルギンの冒険者ギルドのギルドマスターは、ローバー将軍の古馴染みでした。
エルギンの冒険者ギルドの執務室で手紙――バレンのギルドマスターに宛てたものより長い――を読んでいたギルドマスターは、おもむろに顔を上げた。
「なるほど。シャルのやつは元気でやっておるようですな」
「シャル?……あぁ、大隊長殿――イシャライア・ローバー将軍――の事ですか」
「元気も元気、訓練と称して鎧を着たまま俺たちを追っかけ回すんですからね。それも抜き身の剣を振り回して。こっちゃぁ堪んねぇですよ」
「はははは、王国の兵はまず走れ、でしたか?」
「大将の口癖みたいなもんですが……昔っからなんすか?」
「というより、儂ら共通の教訓みたいなものでしてな……」
一瞬遠い目をしたギルドマスターであったが、すぐに気を取り直したように二人に向かう。
「手紙にはあなた方に便宜を図るようにと書いてありましたが?」
「詳しくは言えませんが、上はドラゴンの情報に興味を持っています。その件で幾つかお尋ねしたい事が」
「あと、俺らに改まった口ぶりは無用ですよ?」
「助かる。どうもこういう堅っ苦しいのは苦手でな。で、何が聞きたい?」
あっさりと砕けた口調になったギルドマスターが問いを発する。
「すると、ドラゴンらしき情報が入ってきたのは一月ほど前、それもめぼしい報告があったのはほぼ一日だけと?」
「あぁ、というか、最後の日にあちこちから報告が来た後は、かき消すように報告が入って来なくなった」
「報告の内容ですが、最後の日まではそれらしい影が飛んでたってぇ話、けど最後の日にゃ咆吼やら轟音やらが聞こえたってぇ話なんですね?」
「そうだ。最後の日とその前では内容がまったく違う。儂としちゃぁ、最後の日にドラゴンと何かがやりあって、ドラゴンが退散したんじゃねぇかと思うんだが」
「退散……ですか?」
「くたばっちまったのかと思ったんだが、屍体の報告が全然ねぇ。誰かが猫糞しやがったにしても、ドラゴンの素材が入ったってぇ知らせは、ここ以外のギルドからも入って来ねぇ。仕舞い込んで得になるもんじゃなし、屍体があったとは考えにくいんだよ」
「ギルドを通さずに売った、いや、鍛冶師か錬金術師に渡した可能性は?」
「だとしても、噂ってやつぁ何かしら聞こえてくるもんだ。それがねぇ以上、ドラゴンが退散したってぇのが儂の見立てだ」
「最後の日に戦いの気配がした場所は?」
「あぁ、モローの町の北西側、五十キロ以上離れた辺りだな」
「モローのダンジョンの周辺ではないんですね」
「違う……いや、待て。最後の日じゃないが、その数日前に、モローの新しいダンジョンの上空を、それらしき影が通過した、って報告があった」
「その報告と、最終日の報告を写させてくれませんか?」
「いいとも、用意させよう」
もう一話投稿します。




