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第百七十六章 諸国見廻り組巡察記 2.ガベル手前の野営地(その2)

 着替えと変装を済ませたマリアがフレイと外に出ると、他の三人は既に変装を済ませていた。と言っても、ハンクとバートは整えていた髪をクシャクシャにして無精ひげを蓄えているだけ、カイトは頬に――偽物の――刀傷を付けただけであるが、それでも結構別人に見える。と言うよりも、ヴィンシュタットで被っていた猫を脱ぎ捨てたと言うのが正しいだろう。



「……カイト、あんた本当にその傷を付けるつもり?」

「何だよ? 似合ってんだろ?」

「似合わないとは言わないけど……いつかみたいに右と左を間違えるような真似はしないでよ?」

「お、おぅ……」



 どうやらこの男、既に定番のヘマをやらかした後らしい。



「さて、こっちの用意はできたな? それじゃ……」



 ハンクがそう言って魔導通信機に話しかけると、やがて誰もいなかった筈の(・・・・・・・・・)馬車から、一人の人物が降りて来た。



「それじゃ、これから(しばら)くお世話になります」

「あぁ。こちらこそな」



 ハンス・ヘンデル。元テオドラムの主計士官であり、歴史の知識を買われてクロウの派遣する巡察隊に抜擢された、エルダーアンデッドの一人である。



「しかし……物資も増援も転送し放題かよ。馬車の乗り心地も極上だし……探索ってこんな楽ちんでいいのか?」

「あぁ? 斥候職を舐めんじゃねぇぞ? こんだけ楽なのは、ご主人様の差配だからだ」

「そりゃ解ってるけどよ……」



 カイトの言うとおり、今回の巡察任務は、冒険者たちの経験からしても破格に楽であった。

 何しろ彼らが乗っている馬車は、ただの馬車に見えても実際はダンジョン。ダンジョン壁の特性としてエネルギーを吸収するため、馬車の揺れは馬車(ダンジョン)に吸収されてしまうため、サスペンションなど無いにも(かか)わらず、抜群の乗り心地を提供していた。悪意ある攻撃を寄せ付けないようにとのダンジョン馬車であったが、それ以前に乗り心地の方が改善された結果、ダンジョンである事の利点はこれにありという――クロウからすれば斜め上の――評価が固まっていた。

 ダンジョンであるが故に、馬車の強固さは折り紙付き。更にクロウのダンジョン転移を使えば、物資も人員も補給は容易であるし、万一の時には脱出もできる。本部との通信・連絡も自由自在。偵察部隊としてはこれ以上を望めないほどの厚遇と言ってよかった。



「さて、早速だが確認しておきたい。ご主人様から何か追加の指示は?」

「ありません。基本的な方針は以前のとおり。ご主人様が通って来た事になっている、モルファンの港ズーゲンハウンからエッジ村までの道筋を確認する事、拠点に向きそうな物件があったらチェックしておく事、その他にも適宜様々な情報を集めておく事、表向きの設定は歴史かぶれの道楽者――僕の事ですね――その護衛に就いた冒険者という設定で通す事。それと……危険が迫ったら一切の(ちゅう)(ちょ)を捨ててダンジョン転移で撤退する事。これだけです」

「うむ……出立前に聞いたとおりか」



 今回の巡察任務においては、冒険者たちのリーダーであるハンクがそのままリーダーを務める事になっており、基本的な方針のみを事前に決定した後は、探索のルートやスケジュールなどもほとんどハンクの裁量に任せてある。



「では、今後のルートに関してだが……」



 ハンクがそう言うと全員が口を(つぐ)んで、ハンクの言葉に耳を澄ませる。



「ご主人様からは特に何も言われていないが、やはり沿岸諸国の動向……特に古酒などのサルベージ品に対する反応を探っておく必要があると思う。なので、当初予定のとおりアムルファンのセルキアを目指し、そこで一旦情報収集に当たろうかと思う」

「何の情報を集めんだ?」

「さっきも言ったとおり、サルベージに対する住民たちの反応だな。あとは、新たな拠点となりそうな場所の確認。これについては、ハンスの若旦那にお任せという事になる」

「あぁ……歴史学者とかいう設定だったっけな。もう少し詳しい設定は詰めてあんのか?」



 斥候担当のバートの質問に、



「はい。道楽が過ぎて実家から勘当された、テオドラムの元貴族という事にしようかと」

「何? テオドラム出身だとバラすのか? 大丈夫なのかよ?」

「冒険者の皆さんと違って、出自を訊かれる事もあると思うんですよ、自分の方は。その時ボロが出ないように、ある程度までは本当のところを喋ろうかと」

「……待って。という事は……?」

「はい。実際に貴族の四男坊です。勘当の代わりに軍に放り込まれたんですけどね」

「おぃおぃ……正体がバレんじゃねぇのか?」

「法衣の下級貴族なら、掃いて捨てるほどいますからね。勘当された身だし、実家に差し障りがあるので苗字を名告(なの)るのは控えると言ってしまえば、身許の特定なんか不可能ですよ。髪と眼の色も変わってますしね」

「あぁ……そう言えば……」

「アンデッドになると色が変わるんだよな。俺、アンデッドになって初めて知ったわ」

「いや……これはご主人様の死霊術だけの事だと思うぞ……。まぁとにかく、成算があるならそれでいい。ハンスは一刻も早くグーテンベルグ城の跡地へ行きたいだろうが、そこは納得してくれ」

「解っています。沿岸国に行くのも初めてですから、そっちの方も楽しみですし」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >実家に差し障りが有るので苗字を名乗るのは控える......  カイトにも使える良い方便ですが、いざってときにも使わないだろうなと想像して笑いました。 [一言]  777話おめでとうござい…
[一言] アンデッドになって生き生き!?している一行。 ダンジョン馬車の乗り心地と堅牢さは凄いけれど、 逃げる時はダンジョン馬車を放置ってこと? クリスマスシティーのように、馬なしで自力移動しちゃう…
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