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第百七十五章 革騒動~第一幕~ 7.ローバー兄弟の受難

 「(ふさ)ぎ屋」クンツが例の革製品をバンクスに持ち込んでから、かれこれ十一日を経たある日の事――



「――いや兄上、藪から棒に何です? クリムゾンバーンの革ってなぁ?」



 当惑した声で訊ねているのは、イラストリア王国第一大隊の指揮官にして王国軍の総司令官を兼任するイシャライア・ローバー将軍であり、



「何かは無いだろう。以前に(イシャライア)が私に譲ってくれた名刺入れの事だよ」



 将軍と頓珍漢(とんちんかん)な問答を繰り広げている相手は、将軍の実の兄にして軍務卿代理を務めるイェルマイア・ローバー卿であった。



「……さてね、名刺入れ……?」



 しばし首を捻っていたローバー将軍であったが、



「……あぁ、そう言やぁいつだったか、貰いもんを兄上に押し付けた事がありましたっけね。で、その名刺入れとやらがどうかしたんですかぃ?」



 バンクス在住の商人パーリブが名刺入れを献上した相手は、他ならぬローバー将軍であった。高級そうな革製品ではあったが、名刺入れなど自分で使わないし今後使おうとも思わない将軍は、パーリブの予想したとおり、それを兄の軍務卿代理に譲ったのである。



()(どころ)を知りたい。一体どこから手に入れたんだい?」

「知り合いの商人が送って寄越したんですよ。日頃の厚誼のお礼だとか何とか言われて。……ヤバいもんだったんですかぃ?」

「そう……ある意味ではね。(すこぶ)る付きの高級品だった。私も知人から指摘されて初めて知ったんだけどね」



 パーリブの名誉のために一言云っておくと、(くだん)の名刺入れをローバー将軍に贈るに当たっては、ちゃんと〝クリムゾンバーンという珍しい革〟である事を通知している。ただ、ローバー将軍が高級皮革製品などに興味を持たなかったため、右から左に読み流しただけである。兄の軍務卿代理に譲る時も、その辺りの情報を伝える事は綺麗さっぱり失念していたのであった。



「……兄上がそこまで言うって事ぁ……」

(わい)()という意味でなら、正直言って微妙だね。(わい)()なんかに使うよりも、そのまま売った方がよほど儲かるだろう。贈るにしても一介の軍人などではなく、王族に贈るのが相応(ふさわ)しいような代物だよ」



 淡々と告げたローバー卿であったが、聞かされた将軍の方は(たま)ったものではない。



「……ンなヤバい代物が、何だってまた(わし)んとこなんかに?」

「それこそ贈り主に聞かないと判らないだろう。敢えて考えるとしたら……贈った当人もそこまでの値打ちだとは知らなかったか……もしくは……」

「……もしくは、何です?」



 恐る恐るという(てい)で訊ねるローバー将軍。この兄は昔から頭の回転が早いが、早過ぎて余計な可能性まで考えてしまうのが欠点だ。正直言って訊くのは気が重いが、ここで訊いておかないと、もっと厄介な事になりそうな予感がする。



「……あまりありそうにない可能性だけど、他にもクリムゾンバーンの革製品を持っていて、その宣伝を兼ねて贈った場合だね」



 聞けばクリムゾンバーンの革というのは、その製法が絶えて久しく、今や「幻の革」とまで言われているような代物らしい。一介の商人がそんなものを幾つも所持しているなどとは考えにくいが……いや? 同じような話を以前に聞かなかったか……?



「……兄上……まさか……?」

「だから()(どころ)を知りたいんだよ。この革が他にもあるというなら、可能な限り早く押さえておかないと、古酒の二の舞になる」



 放ってはおけないだろう? そう言う兄の説明を聞いて、頭を抱えるローバー将軍。



「……こいつもノンヒュームがどっかから拾ってきたって訳ですかい……?」

「それを確かめたいんだよ。急かすようで悪いけど、誰から貰ったんだい?」

「パーリブってぇバンクスの商人です。本人はイスラファンの出身だそうですがね」

「紹介状を書いてくれるかい?」

「直ぐにでも書きましょう」



 ()くして、舞台は再びバンクスへと戻るのであった。

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