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第百七十四章 古酒騒動~第二幕~ 1.元凶たちの困惑(その1)

 切っ掛けとなった話は、クロウと通信機で話していた時にホルンが漏らしたものであった。



「ホルベック卿が?」

『えぇ。古酒をどこか他の場所でも供給してくれないか――と。自分のところだけでは手に余るとの事でしたね』



 ホルベック卿がマナステラ視察団の件で連絡会議と協議した――その時は連絡会議と視察団との会見自体はお流れになったのだが――時の雑談の中で、そういう話が出たのだという。



『雑談めかしてはいましたが、あれは本音も本音、大本音でしょう』

「で、何と答えたんだ?」

『前向きに検討するとだけ。……以前に教えて戴いた言い回しですが、こういう時には便利ですね』

「ふむ……実際に検討したのか?」

『セルマインに話を持ちかけたところ、即行で断られました。これ以上仕事とリスクを抱え込みたくないそうです』

「ドランの(とう)()たちはどうなんだ?」

『彼らは造るのが本分で、販売となると専門外ですから』



 成る程。これは確かに即答しかねる案件だ。少なくとも、関係各方面との調整が必要な事は間違い無い。ノンヒューム側で心当たりの伝手(つて)が使えそうにないとなると、人間側の伝手(つて)しか無いのだが……



「そうなると……残るのは酒造ギルドぐらいか?」



 冷蔵箱(アイスボックス)関連で交流のあるイラストリアの酒造ギルドなら、話を持って行く事もできるだろう。既に酒の低温殺菌に関しては、技術開発で協力体制を敷く事が内定しているという。マナステラには同国の酒造ギルドを通して供給すれば良い。その辺りはイラストリアの酒造ギルドがやってくれるだろう。マナステラが後塵を拝する構図は変わらないが、今はマナステラの事情など忖度(そんたく)していられるか。



『確かに、酒造ギルドを通しての供給は可能でしょうが……』

「……何か問題があるのか?」

『はぁ……ドワーフたちが……その……』

「成る程……」



 そこまで言われればクロウにも察しは付く。これ以上の古酒を人間たちに廻すのを、ドワーフたちが渋っているのだろう。酒飲みとしてその気持ちを(しん)(しゃく)できない訳ではないが……



「今の状況を見るに、古酒というのは良い取引材料になりそうなんだよなぁ……」

『はぁ……』



 何に使うという当てがある訳ではないが、それでも、使えそうな選択肢を潰すのは惜しい。ただし、これには別の問題点もあった。肝心の古酒の数である。

 (そもそも)、陶器製の酒瓶を積載して沈没した船というのが限られる上に、その酒が飲むに堪える状態で保存されている例は稀である。それなり以上の味わいに熟成されているものは更に少なく、結果的に古酒そのものの数が稀少になるという事情を招いていた。



『事務局が保管している古酒は、あと少ししか残っていません』

「俺の方も、大して事情は変わらんな。……追加で入手を考えるべきなのか?」



 しかし前述の理由から、サルベージの回数に比して古酒の回収率は良くない。どちらかというと古酒以外のサルベージ品が山積みになっている状況である。それこそ金銀財宝に目も(くら)まんばかりではあるのだが、現状でそれらを(さば)伝手(つて)の無いクロウにとっては、お荷物以外の何物でもない。これ以上歩留まりの悪い古酒探しをするのも気が進まない……と考えていたところで、クロウはその事に気が付いた。



「……ホルン、古酒を求めてきた連中は、古酒以外のサルベージ品について何か言っていたか?」

『いえ……そう言えば、口に出すのは古酒の事ばかりでしたね』

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