挿 話 従魔たちと透明ボール(その1)
思いのほか長くなったので、二回に分けます。
クロウがマンションで荷物の片付けをしている時、偶々その場に居合わせたキーンが、ネズミ車を見て質問したのがきっかけだった。
『マスター、これって、何ですか?』
何だ? ……あぁ、知り合いが引っ越す時に引き取ったやつだ。その時は、いずれハムスターか何か飼う事があればと思ったんだが、結局飼う事も無くここまでほったらかしになっていた。この先飼う事も無いだろうから処分しようと思っていたんだが……。
『それはネズミ車と言ってな……飼っているネズミが運動不足にならないように……』
クロウとしては簡にして明な説明であったつもりだが、従魔たちにとっては違ったようだ。
『え? ネズミなんか飼うんですか!?』
『それは……初耳……です』
『食べ物を囓ったりぃ、悪戯ばかりぃ、しますよぉ?』
『畑の作物を囓ったりもしますよ?』
『ご主人様の世界は、色々と想像のつかない事で一杯でございますな……』
大いに驚かれてしまった。愛玩用のネズミなんだと説明はしたんだが……
『愛玩用のネズミ……ですか』
『白毛の……ものは……王侯貴族が……飼う事も……あるとは……聞きますが……』
『まぁ、こっちの世界ではそんなもんだと思ってくれ。でないと話が進まん。で、こいつはそのネズミの運動用に、檻に入れておく訳だ』
そう説明すると、キーンがやってみたいと言い出した。まぁ、サイズ的には無理はないか……。
『わっ! わわっっ! わはーっっ!』
あぁ……身体が軽いのが災いして、足を停めた途端に車の慣性で振り回されたか。
『マスター! これって、面白いです!』
『ほほう……では、今度は私めが……』
キーンとスレイは歓声を上げているが、他の三名は微妙な表情だな。
『サイズ的に入りません』
『あんなにぃ、速くはぁ、動けなぃですぅ』
『私は……そもそも……走れませんし』
『あたしだと、頭がつっかえそうなのよね……』
おぃシャノア、お前まで試してみる気だったのかよ。
(しかし……)
彼らの訴えを聞いてクロウは考え込んだ。ここは使役者・契約者として、彼ら全員が楽しめる遊具を探すべきではないのか。
(猫じゃらしや毛糸玉……怒りそうだな。フリスビーやキャッチボール系は無理があるか。いや、バランスボールなんかは使えるか? 滑り台にシーソー……このあたりは全員で楽しめそうだが、マンションに置くには少し狭いな……というか、ペットサイズのシーソーなんかあるのか? 滑り台くらいならあるかもしれんが……自作する事になりそうだな。まぁ、いいんだが。トランポリンは……受けそうだが、これも自作するしかないか。それに、粘菌だと落下の衝撃で潰れたり飛び散ったりするんじゃ……ペットボトルにでも入ってもらう……待てよ、ペットボトル……透明な容器に入るって……何かそういうのが無かったか?)
クロウは懸命に記憶を漁る。
(う~ん……あ! そうだ、確かハムスターなんかを中に入れて運動させる透明なプラスチックのボールがあったはずだ。何とかボールとかいう……あれなら全員で楽しめないか?)
熱中し出すと周りが見えなくなるのがこの男の悪い癖なのだが、従魔たちは思案に耽るクロウを期待の籠もった目で見つめている。いつの間にやらシャノアもその中に入っているが。
(けど……市販品はハムスター用だからな。サイズと体型の点で少し厳しいか。……いっそ、錬金術で自作するか? ……いや、それでもウィンのサイズだと、かなり大型のものにならざるを得ないか……いや!)
ここでクロウは余計な事に気付く。気付いてしまう。
(空間魔法の中に、確か空間拡張の魔術があったはずだ。あれを付与すれば……)




