第十九章 王都イラストリア 2.王国軍第一大隊
新たな動きが始まります
モローの近くで鬼火の噂があった事、ドラゴン出現の形跡が確認された事、および尋常でない魔石の宝玉が採取されたらしい事などから、モローでの調査の重要性が高まってきた。ただし、現時点では未確認な情報であるため王国としての調査団は派遣できない。そこで、第一大隊からこの手の調査に慣れた者を二名ほど現地へ派遣し、情報の収集に当たる事になった。
「と、いうわけで、お前らにはモローまで出かけてもらう」
「うへぇ」
「モローですか……」
「文句を言うな。わりと急ぎの調査だから、今日中に発ってもらうぞ」
「従兵を付けますから、馬で山裾まで向かって、そこから山越えして下さいね。あ、従兵は馬を連れ帰るためですから、調査に連れてっちゃ駄目ですよ♪」
「山を越えたらまずバレンへ行け。冒険者ギルドのギルドマスターに宛てて紹介状を書いてやるから、ダンジョンについて聞き込んでこい」
「質問内容はあとでまとめたものを渡します。それと、以前モローにあったというダンジョンについても調べてきて下さいね♪」
「あの、大隊長殿、モローのダンジョンについてなら、エルギン領の方が近いんじゃないですか」
「ん? ダールは知らなかったか? エルギンってなぁ平地にある農業主体の領地でな、山も森も無いもんでモンスターも出ねぇ。早い話が獲物が無ぇもんで、冒険者はあまり立ち寄らねぇんだ。だから、モローのダンジョンについての記録があるんなら、バレンの冒険者ギルドだな」
「だったら、バレンでの調べが終わったら引っ返していいんですかい?」
「馬鹿野郎、面倒臭がらずに、すぐにエルギンとモローに向かえ」
「エルギンには冒険者がいないんじゃ?」
「エルギンは領主もギルドも亜人と仲良くてな、亜人嫌いのバレンじゃぁ手に入らねぇ情報もあるんだよ。バレンの冒険者ギルドのギルマスは儂の知り合いだ。手紙を書いてやるから、それ持ってけ」
「エルギンでの聞き込みが終わったらそのままモローに行って、現地で聞き込みや調査をしてきて下さいね♪」
「ただし、問題のダンジョンに潜るのは絶対に禁止だ!」
「通信の魔道具を持たせます。知り得た内容はその日のうちに、簡潔にまとめて報告して下さい。もちろん、正式な報告書も帰還次第に提出で♪」
「あの……いつまでに?……」
「十日以内に♪」
「やれ!」
「うへぇ~~」
「はぁ……」
力なく項垂れる二人――ダールとクルシャンク――が追い出されるようにして準備に向かう。
ここに、兵士二人からなるイラストリア王国第一大隊モロー調査隊の派遣が決まったのである。
明日は、挿話一話をはさんで、モローに関する話が進んで行きます。




