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第百六十八章 五月祭(初日) 5.エルギン~マナステラ視察団~

「ふむ……テオドラムという国は、すっかりエルフたち……いや、ノンヒュームたちを敵に回しているようだな……」



 ホルベック卿が手配した宿の一室で、部下たちが訊き込んできた噂話を(まと)めながらそう(つぶや)いているのはマナステラからの視察団、そのエルギン派遣チームのリーダーであった。


 エルギンのノンヒューム連絡会議と(よしみ)を結ぶという大目標は叶えられなかったが、そのままおめおめと引き下がるわけにはいかない。そこでホルベック卿のアドバイスを容れて、ノンヒュームたちの噂話を聞き込む事で状況改善の一助としようとしていたのである。幸いここエルギンの町は、普段からノンヒュームが多い土地柄である。彼らの話を聞くだけでも、祖国が抱えている問題を解決する一端くらいは掴めよう……その程度の認識であったのだが……



「予想外な話が飛び込んできたな……」



 エルギンチームのリーダーが腕を組んで唸っているその原因は、部下たちが訊き込んできた噂話――()(てい)に言えばテオドラムの悪評――と、それに対するノンヒュームたちの反応にあった。そして……その悪評の種を()いたのは、かつてシュレクのネスの(もと)で特訓を受けた卒業生にして、この度ドランまでの神官見習いマロウの護衛を引き受けた男、スキットルであった。


 シュレクのダンジョン村で一度は村人に袋叩きにされたスキットルであったが、その後ネス自らが彼に特訓を施しているのを、そして泣き声を上げつつもスキットルがその特訓に()いて行っているのを()の辺りにして、村人たちの見る目も少しずつ変わってきた。やがて数名の村人たちがスキットルと共にネスの特訓を受けるに至り、スキットルは――多少問題はあるが――同じ訓練生仲間として認められるようになったのである。

 そして、そんなスキットルがダンジョン村の村人たちから耳にした話というのが、ダンジョン村に対するテオドラムの不当行為のあれこれであったのだ。

 (こと)に、民を守るべき筈の兵士が無辜(むこ)の子供に斬りかかった――その後で、村を守護していた骸骨の(スケルトン)勇士(ブレーブ)にボコられた――話は、根は善良なスキットルを憤激させた。そして、その話を筆頭にしたテオドラムの悪行を、スキットルは護衛としてエルギンを発つ前に――あくまでも噂話として――エルギンの酒場で披露したのである。


 話を聞いたエルギンの冒険者たちは激怒した。元々テオドラムという国に対してあまり好い感情は持っていなかったが、この話を聞いた事でテオドラムに対する好感度は底を割る勢いで墜落――暴落どころではない――した。特にノンヒュームたちは、テオドラムへの反感を以前にも増して募らせる結果となったのである。


 マナステラの視察チームがエルギンに到着したのは、スキットルがその話をもたらしてから二週間以上経ってからだったが、それでも依然としてテオドラムへの悪口はあちこちの酒場で話に登っていた……特にノンヒュームたちの間で。

 マナステラのエルギン派遣チームは、そういうノンヒュームたちの反テオドラムの空気を敏感に察知して報告したのであった。



(……我が国はテオドラムと特に密接な関係を持っている訳ではないが……それでも、この情報はできるだけ早く報告すべきだな)



 とは言え、何しろデリケートな問題である。盗聴の危険がある通信の魔道具などは使いづらい。そうすると、急ぎ祖国に立ち返って口頭で報告するべきか。連絡会議の件は、また後日ここを再訪(・・・・・・・・・)すればいい(・・・・・)。リーダーは、ホルベック卿が聞いたら頭を抱えそうな判断を密かに下していた。



 ()くて、クロウたちは自分でも気付かぬうちに、マナステラという国に反テオドラムの種子を蒔く事になったのである。

テオドラム兵士のダンジョン村への乱暴については、第百六章で触れています。

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